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「クトゥルフ神話TRPG」なのに、クトゥルフが出てこない理由

ベッドに座るクトゥルフ人形のイラスト

「クトゥルフ神話TRPG」という名前を見て、当然クトゥルフと戦うゲームだと思いますよね。
実際にプレイしてみると……クトゥルフが全然出てこない……。

これは初心者が最初に感じる疑問だと思います。
タイトル詐欺ですからね、表紙のキャラが全然出てこないのですから。

ですが、そもそもクトゥルフは、簡単に登場できない存在なんですよ。
今回はその理由を説明していきます。

理由1:クトゥルフは深海都市に封印されている

まず大前提として、クトゥルフはルルイエという海底都市に封印されているんです。
厳密には、クトゥルフは「死んでいるが夢見ている」状態です。
どちらにせよ、探索者が会えない場所にいるわけですね。

ラヴクラフトの原作小説『クトゥルフの呼び声』でも、クトゥルフが目覚めるのは一瞬だけです。

だから、普通のシナリオでクトゥルフと遭遇するのは、かなり無理があります。
「クトゥルフの封印が解けて」「クトゥルフが目覚めて」「クトゥルフがすぐに眠りにつかず」「たまたま探索者の行く先に現れて」「探索者がその姿を見て正気を保てている」なんて、さすがに偶然が重なりすぎです。
原作設定を尊重すれば、登場しないのは当然なんです。

言い換えれば、クトゥルフが出てこないのは、多くのユーザーがこの設定を大切に守っている証拠です。
……でも、この理由を示す機会もないので、分からないのは仕方ないですね。

理由2:神格と対峙はゲームが崩壊する

旧支配者は恐怖を凝縮した存在

断言しますが、クトゥルフと遭遇した時点でシナリオは終了です。

クトゥルフ神話TRPGには「正気度」(いわゆるSAN値)というパラメータがあって、恐ろしいものを見ると減少していきます。
で、クトゥルフのような旧支配者クラスを目撃すると……正気度が一気に大量喪失。
いわゆるSAN値直葬というやつですね。

仮にSAN値が残ったとします、
旧支配者と人間が戦闘に入ったとしたら圧倒的なパワー差で(物理的にも精神的にも)ボコボコにされるでしょう。
だからゲームデザイン上、登場させるとシナリオが成立しないんです。

クトゥルフだけじゃない、他の旧支配者も同じ

これ、クトゥルフに限った話じゃないんですよ。
アザトース、ヨグ=ソトース、シュブ=ニグラス……クトゥルフ以外の旧支配者も、基本的には登場しません。
理由は同じです。

初心者だと、これらの名前は聞いたことすらないでしょうし……。
一部シナリオでは、アーティファクトや狂信者の暗躍によって、部分的に登場しますが……それも熱心なプレイヤーなら気づく程度ですね。

唯一の例外がナイアラトホテップです。
ナイアは人間の姿を取れる上、人間に興味のある神格なので、比較的シナリオに組み込みやすく、名前も聞いたことはあるでしょう。

つまり、「クトゥルフ神話TRPG」という名前でありながら、神格クラスとの直接対峙は基本的に想定されていない
クトゥルフは神格だから対峙することがない……。
あげく、神格のヤバさを抑えて登場できるナイアラトホテップの方がよく登場しがち……。
ということです

では、実際には何と戦うのか?

シナリオの中心は「狂信者」との対峙

じゃあ何と戦うのか。
答えは簡単で、旧支配者を崇拝する狂信者たちです。
邪教団の信者、カルト組織のメンバー、狂った学者……人間同士の戦いがメインなんですよ。

ある意味、これが一番恐ろしいかもしれません。
理性を失った人間ほど怖いものはない、って感じですね。

下級の神話生物との遭遇

あとは、ディープワンズやショゴスといった下級の神話生物と遭遇することもあります。
遺跡の奥深く、儀式の最中、そういった場面で登場するわけです。
こちらは恐ろしいけれど、まだ(旧支配者に比べれば)対処の余地がある存在。

正直、これくらいのバランスが「ゲームとして成立する」ギリギリのラインなんですよね……。
旧支配者クラスだと強すぎて、逆にゲームにならない。
だから程よく恐ろしい敵として、下級神話生物が活躍するわけです。
もちろん、神話生物もいい見た目ですのでSAN値は削れますし、人間ではできない攻撃をしてきますので、雑魚ではありません。

格の低い神話生物ですら、無対策であれば死ぬことも少なくありません。
それなりの存在になれば、1度の攻撃で多段ヒット、1ターンで3回行動、魔術による人智を超えた攻撃……腕に覚えのある人物でも苦戦は必至でしょう。
そして、その格上の存在になる神格クラスであれば……繰り返しになりますが、勝てるビジョンが思いつきません。

クトゥルフ神話の「気配」を楽しむゲーム

このまま語りだすと終わらないので、話をまとめましょう。
このゲームの本質は「見えない恐怖」を体験することなんです。
クトゥルフが直接登場しなくても、その影響や気配は物語全体に満ちている。
だからこそ恐ろしいんですよ。

「姿を見せない存在」の方が、よっぽど怖い。
それを理解してシナリオが作られているわけですね。
むしろ登場しない方が、神話的恐怖としては正しいんじゃないですか……。

そもそも、ラヴクラフトの原作小説も「正体不明の恐怖」を描くものが多いです。
直接対決して勝つ話じゃない。
クトゥルフTRPGはその精神を忠実に再現している、と言えます。

だから「クトゥルフが出ないじゃないか」と文句を言うのは、ちょっと筋違いなんですよね。
このゲームはクトゥルフと戦うゲームではなく、クトゥルフ神話の恐怖を体験するゲームなんです。
安心して(?)ダイスロールを続けてください。

アルテミア王国 王立芸術古物院 呪物特別顧問のミセリコルデです
ルセンティアナ女王陛下の恩寵の元、特殊な魔法物品の鑑定補佐と管理業務を任されています