タイプ9
平和をもたらす人タイプから書きはじめるということ
話し合いの場を丸く収めてくれるキャラ。
設定メモにはそう書いたはずなのに、いざ本編を書き出すと、その子だけ何もしていないように見えてくる……。
皆さんにも、そういう手詰まりの覚えがありませんか。
エニアグラムは、人の動機のほうに注目して9つに分ける性格分類です。
そのうちのタイプ9が、今回扱う平和をもたらす人タイプにあたります。
定義の話はここまでにして、このタイプのキャラをどう作るかの話に入りましょう。
このタイプが扱いにくく見えるのは、動作が引き算でできているからなんですよ。
他のキャラが「する」ことで場面を前に進めるところを、この人は「しない」ことで場を保ちます。
だからカメラの向け先がわからなくなる。
まぁ、これは書けないという意味ではありません。
向け先が本人ではなく周りにある、というだけの話です。
この人が口を開いた前後で、隣にいる人物の温度が変わっている——そこを書けば、働きはちゃんと画面に出ます。
この記事では、強み3つ・弱点2つ・職業3つ・シンボル5つ・輝く場面3つ・転換点3つを、キャラ作りの材料として並べていきます。
自分の性格を測るためのものではなく、そういう性格のキャラクターを一体組み上げるための材料です。
作りかけのキャラに当てはまりそうな部分だけ、抜き取って使ってもらえれば。
このタイプを映す言葉
「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」
——兼好法師『徒然草』
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」
——鴨長明『方丈記』
満開だけが見どころではない、という話と、形は続いているのに中身は入れ替わり続けている、という話です。
断言する言葉より、こういう文のほうが、このタイプの輪郭には近い気がします。
一言で言うとこんなタイプ
自分が消えることで、場のほうを保つ。
平和をもたらす人タイプを一行にすると、これに尽きます。
誰かを説得して収めるのでも、正しい答えを出して収めるのでもありません。
自分の主張の分だけ席を空けると、その場が勝手に丸くなる。
そういう収め方をする人なんですよ。
作りかけのキャラに心当たりがあれば、この記事の材料はだいたい流用できます。
平和をもたらす人タイプのキャラを支える3つの強み
魅力1:場を調える力
誰の意見も潰さないまま、話だけが前に進む。
これがこのタイプの調え方です。
どちらが正しいかを決めて収めるのではなく、両方の言い分が残ったままでも動ける道のほうを探すんですよ。
対戦ゲームのヘイト管理を、まるごと逆向きに使っている感じですね。
自分に注目を集めて場をコントロールするのではなく、自分から注目を外すことで場を動かす。
物語では、この人が何か言った直後に、周りの台詞の温度だけが下がっている——そういう書き方をすると働きが見えます。
魅力2:臨機応変
その場に合わせる速さが、このタイプの即応力です。
自分の型を持ち込んで対応するのではなく、相手の型のほうへ自分を寄せていきます。
だから初対面でも組めるし、知らない土地に放り込まれても浮かないんです。
創作上の利点はかなり大きくて、どんなパーティーにも、どんな世界観にも入れられます。
ただ、置かれた場所によって振る舞いが変わるので、一貫性は口調ではなく引き受けた役割のほうに出ますね。
そこを決めておくと、場面ごとに別人にならずに済みます。
魅力3:共感力
共感というより、伝染に近いかもしれません。
自分と相手のあいだの境目が薄いので、相手の機嫌も不安も、そのまま入ってきます。
だから、まだ誰も言葉にしていない段階の空気を先に拾うんですよ。
ヴァイオリンの共鳴……つまり、弾いていない隣の弦まで一緒に震えてしまうような反応です。
物語で使うなら、この人が黙り込んだタイミングそのものを、場の不穏さの合図にできます。
本人の説明台詞は要りません。
平和をもたらす人タイプの物語を深くする2つの弱点
葛藤1:衝突回避
揉めるくらいなら、自分の主張のほうを引っ込める。
このタイプの判断は、内容の是非より先に、波風が立つかどうかで動きます。
正しいと思っていても、口にした瞬間に空気が固くなるとわかれば、言わないほうを選ぶんです。
正直、厄介なのはここに逃げの自覚が伴わないところです。
本人の中では「今は言うときではない」という判断として処理されるので、後から振り返っても失敗の記憶になりません。
物語では、この先送りが一つずつ積もって、取り返しのつかない場面に着地する——そういう転がし方ができます。
葛藤2:遠慮しすぎ
こちらは、もう一段深いところまで行きます。
譲りすぎた結果、譲っているという自覚そのものが消えるんですよ。
望みを我慢しているのではなく、望み自体が消える。
だから「何が食べたい?」と聞かれても、本当に何も浮かばない。
意地悪でも卑屈でもなく、ただの空欄です。
1つ目との違いはここで、衝突回避にはまだ「言わない」という選択の感覚が残っていますが、こちらには残っていません。
この弱点は、魅力1と同じ根から生えています。
自分の輪郭を薄くすることで場が保たれる。
その薄さが、いつのまにか自分の分の希望まで消してしまうわけです。
まぁ、すべてのキャラがここまで深く行くわけではないので、深さの目盛りとして読んでもらえれば。
平和をもたらす人タイプに似合う職業とシンボル
物語で活躍させる職業アイデア
適職1:木を一本も切らずに庭を組む庭師
どれか一本を主役に据えて、あとは刈り込む。
そういう作り方をしない庭師です。
すでに生えているものを一本も切らず、全部が活きる配置のほうを時間をかけて探します。
完成した庭は、どこから見ても主役がいません。
物語では、この庭そのものが世界観の説明装置になります。
切らないと決めた理由を一言だけ語らせれば、このタイプの価値観が読者に渡るんですよ。
適職2:どんな旧式にも合わせて直す渡りの整備士
規格を新しいものへ統一するのではなく、機械ごとの癖のほうへ自分の手順を合わせる整備士です。
だから、廃棄されるはずの旧式がまだ現役で動いている辺境ほど、この人の腕が要ります。
相手に同調する形の即応が、そのまま職能になった形ですね。
物語では、移動する立場が便利に効きます。
どの陣営にも属さないまま、どの陣営の船にも乗れる。
情報が自然に集まる位置にキャラを置けます。
適職3:窯の気まぐれに任せて焼く陶工
狙った色を出すために窯を制御するのではなく、出た色のほうを受け取る陶工です。
失敗作という概念が本人の中に薄いので、割らずに全部並べてしまいます。
境目の薄さが、そのまま作風になっている職業だと思っています。
物語では、この人の作品を伏線にできます。
意図せず焼き上がったものが、後から意味を持ってしまう。
そういう仕掛けと相性がいいんですよ。
このタイプを象徴するもの
動物:亀
何も言わずにそこにいて、危なくなれば引っ込む。
争わないことで生き延びる形が、このタイプの守り方と重なります。
甲羅は攻撃のための装備ではなく、その場から自分をいったん引くための装備なんです。
デザインに落とすなら、背負い物や外套のかたちで甲羅を持たせると、引っ込む動作がそのまま絵になります。
植物:稲
風が吹けば一斉に同じ方向へ倒れて、風が止めばまた起き上がる。
逆らわないことで折れない、という強さの形です。
一本ではなく群れで植えられているところも、このタイプの位置取りに合っています。
名前や家紋のモチーフに使いやすい素材ですね。
人工物:襖
仕切りにもなれば、外せば一部屋にもなる。
それ自体は何も主張せず、部屋の使われ方のほうを変えます。
境目でありながら境目を消せる道具、というのがこのタイプらしいところです。
和の世界観なら小道具として、そうでないなら「動かせる壁」という発想だけを持ち込めます。
色:枯草色
淡い黄土のような色です。
どの色の隣に置いても、隣の色のほうが立ちます。
単体では地味なのに、配色に混ざると全体をまとめる役に回るんですよ。
衣装の基調色にすると、パーティーの集合絵で他のキャラの色が生きます。
自然現象:霧
境目を溶かして、すべてを同じ色にしてしまう。
輪郭を無くす方向の自然現象です。
敵と味方の区別も、道があるかどうかも曖昧にするところが、このタイプの怖い側面と重なります。
ただ、これは象徴として持たせるモチーフです。
毎回の天候として出すと、意味のほうが薄れます。
こんな場面で平和をもたらす人タイプは主役になる
誰の顔も潰れなかった打ち上げ
公演か大会か、とにかく何かが終わった夜の席です。
成功だったか失敗だったかで意見が割れて、片方が決定的な一言を言い切る寸前まで来ています。
そこでこのキャラが、まったく関係のない話を思い出したように話し出す。
去年の同じ席で誰が何をこぼしたか、という程度の話です。
誰も止められていないし、誰も謝っていません。
それなのに、十分後には全員が別の話で笑っています。
ここで働いているのは、どちらが正しいかを決めないまま話を進める力です。
本人は何も勝ち取っていません。
初対面と組まされた稽古場
その場で相手を割り振られる形式の稽古です。
組んだ相手は初対面で、教本とは違う癖のある構え方をしています。
直させることもできたはずなんですが、このキャラは自分の手順のほうを崩して、相手の癖に合う組み方を探し始めます。
十分後には、とりあえず形になっている。
周りが少し驚くのはそこです。
強いわけでも速いわけでもなく、どこに置かれても浮かない——その場の速度に自分を合わせる即応が、いちばん見える場面ですね。
何も言わずに横にいた夜
熱を出した仲間の枕元です。
気の利いた励ましも、薬の知識もありません。
このキャラがしたのは、椅子を引いて横に座って、そのまま黙っていることだけです。
それなのに、しばらくすると相手の呼吸が浅い速さから落ち着いてきます。
境目が薄いぶん相手の温度がそのまま入ってくる反応が、逆向きにも働いているんですよ。
言葉で支えるキャラとは、別の系統の見せ場になります。
平和をもたらす人タイプを成長させる衝突と試練
このタイプが対立しやすい相手
まず、助ける人タイプとの組み合わせです。
相性としては噛み合う側なんですが、この二人を並べると独特の停滞が起きます。
どちらも自分を後回しにするので、摩擦がまったく起きない代わりに、二人とも望みを言わないまま時間だけが過ぎていくんですよ。
互いを優先し合った結果、誰の希望も実行されない。
穏やかなだけの関係として書くのは、正直もったいないところです。
この静かな行き詰まりのほうが、よほど物語になります。
噛み合わないほうの代表は、個性的な人タイプですね。
自分を立てることで存在を示す相手と、自分の分を引くことで場を保つこのタイプ。
9側の同調は、相手には「見てもらえていない」として届きます。
合わせているのに、合わせていること自体が冷たさとして受け取られる。
相手が聞きたいのは本心なのに、返ってくるのは同意だけですから。
すれ違いの原因が善意の側にあるので、話として長く引っ張れます。
挑戦する人タイプとは、押す側と退く側で単純に噛み合いません——8はこのタイプの同意を本心が見えないと感じ、9のほうは圧そのものを避けるからです。
プレッシャーを受けたときの行動パターン
通常時は、合わせることで場を保っています。
ところが余裕がなくなると、合わせながら疑い始めるという別の顔が出てきます。
同意の言葉と、内心の不信が割れるんですよ。
表向きの態度は、ほとんど変わりません。
変わるのは量のほうで、確認の回数と事前の根回しだけがじわじわ増えていきます。
周りが異変に気づくのは、この人が同じことを三度確認してきたときですね。
描写のコツは、態度ではなく手数を書くことだと思っています。
いつもどおり穏やかにうなずいている人が、その日だけメッセージを二回送り直している。
それくらいの解像度で足ります。
転換点となる時間と場所
一つ目は、夕方の縁側です。
全員の希望を順番に通していった結果、最後に自分の分だけが残っていないと気づく場面ですね。
誰にも奪われていません。
自分で配り切っただけです。
二つ目は、朝の教室や校舎。
意見を求められて、遠慮して黙るのではなく、本当に何も浮かばないことに自分で気づく場面です。
2つ目の弱点がいちばんむき出しになる瞬間なので、物語の折り返しに置くとよく効きます。
三つ目は、雪の夜の回廊です。
同意した覚えのないことが、いつのまにか自分の同意として通っている。
抗議しようとして、いつうなずいたのかを思い出せない自分に行き当たります。
三つとも、外から何かをされる場面ではありません。
自分が積み上げたものに、自分で追いつく場面なんですよ。
平和をもたらす人タイプとつながる他のタイプ
余裕を失ったとき、忠実な人タイプの顔が出る
エニアグラムには、余裕を失ったときに別のタイプ側の振る舞いが表に出る、という見方があります。
このタイプの行き先は、忠実な人タイプです。
合わせながら疑い始めて、確認と根回しの量だけが増えていく——さきほどの状態がそれにあたります。
そもそも、タイプそのものが入れ替わるわけではありません。
普段は出てこない側の振る舞いが、表に出てくるという話です。
同じ動きを別の側から見たければ、忠実な人タイプの記事[URL①]と並べて読むのが早いと思います。
調子が出ているとき、達成する人タイプの顔が出る
逆に、調子が出ているときに表へ出るのは達成する人タイプの顔です。
止まった瞬間に自分の価値が消える気がして、走り続ける。
普段は動かないこのタイプから、そういう動き方が出てきます。
キャラの見せ方としては、いちばん意外性のある一面になります。
その振る舞いの原型のほうは、達成する人タイプの記事[URL②]に置いてあります。
他の体系と共有しているもの
体系をまたいで見ると、MBTIのESFJとは、調和と衝突回避という2つの特性を共有しています。
座標の取り方が違うので、片方の言葉がもう片方にそのまま写るわけではありません。
重なっているのは、あくまで特性のほうです[URL③]。
ユング12アーキタイプの隣人とも、臨機応変と遠慮という2つが重なります。
同じ材料が、別の体系では別の名前で呼ばれている。
横串で見ると、キャラの引き出しはこの重なりの数だけ増えます[URL④]。
9タイプ全体の並びから確かめたいときは、エニアグラムのハブ記事[URL⑤]から入れます。
さあ、平和をもたらす人タイプの物語を
弱さも個性も、すべてが物語の素材
衝突を避ける癖も、望みを思い出せなくなる深さも、直させる方向で書かなくて大丈夫です。
むしろ、この2つがないと、このタイプは「いい人」で終わってしまいます。
自分の分を配り切ってしまう人だからこそ、縁側の場面が効くんですよ。
冒頭に徒然草の一節を置いたのは、このためでもあります。
いちばん整った状態だけが見どころではない、という見方は、そのままこのタイプの弱点に使えますから。
物語を紡ぐことで見えてくるもの
このタイプを一体書いてみると、書き手の側にも発見があります。
何もしていないように見えるキャラの働きを出すには、周りの人物の変化を書くしかないからです。
結果として、群像の描き方が一段うまくなります。
もう一つ。
置かれる場所ごとに振る舞いが変わっていくのに、読み返すと同じキャラのままなんですよ。
方丈記の一節を選んだのは、たぶんそこです。
まぁ、えらそうなことを言いました。
私が毎回できているかは、別の話ですが。
さあ、あなたの物語を始めよう
作りかけのキャラが今どこまで書けているかは、私にはわかりません。
ただ、名前と一行の設定さえあれば、このタイプは動き出せます。
何かを勝ち取らせなくていいからです。
あなたのキャラクターは、誰かの隣に座って黙っているところから始められます。
その場面が一つ書ければ、もうその子はそこにいますよ。