タイプ8
挑戦する人タイプというキャラクターの手触り
強いキャラを書こうとして、できあがったのがただ怒っているだけの人だった。
設定では頼れるはずだったのに、本編に出したら周りを黙らせる係になっていた。
そういう手応えの悪さに覚えのある皆さんは、けっこういるんじゃないでしょうか。
……たぶん、強さの置き場所がずれているんですよ。
力の量ではなく、その力がどこへ向くかの設計がないと、強さは乱暴さに化けます。
置き場所というのは、誰のために押すのか、どこから先は押さないのか、という線のことです。
この線がないまま力だけを渡すと、キャラは物語のなかで暴れるだけになります。
逆に線さえ引けていれば、乱暴な行動もぜんぶ意味を持ちはじめるんですよ。
エニアグラムは人の動きかたを9つに分けて見る考え方で、その8番目に置かれているのが挑戦する人タイプです。
分類そのものの説明はここまでにして、キャラの話に入りましょう。
このタイプのキャラは、揉めることを損だと思っていません。
正面から来て、正面から押します。
だから物語では、動かない状況を無理やり動かす役として使えるんですよ。
ただ、そこだけを書くと乱暴な人で終わります。
面白くなるのは、押す理由と、押せない場所の両方を持たせたときですね。
この記事では、その両方を材料として並べていきます。
このタイプを映す言葉
「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るもの也」
——西郷隆盛(『西郷南洲遺訓』)
「安全とは、ほとんど迷信のようなものです」
——ヘレン・ケラー(『Let Us Have Faith』1940年)
片方は扱いにくさの話で、もう片方は安全そのものへの疑いです。
どちらもこのタイプのキャラの手触りに近いと私は思っています。
一言で言うとこんなタイプ
このタイプのキャラは、弱っているところを人に見せません。
我慢して隠しているというより、見せないこと自体が強さの証明になっている感じですね。
だから迷いも傷も外に出さないまま進みます。
隠しきれているあいだは強い人でいられる。そう組み立てると、キャラの行動に筋が通ります。
挑戦する人タイプのキャラは、ここが面白い
このタイプに割り当てられている強みは3つあります。
特性の名前だけを見るとほかのタイプとも重なるので、この記事では出かたのほうを書いていきます。
魅力1:決断力
このタイプが速いのは、正解を出すのが速いからではありません。
決まっていない状態そのものを嫌うので、中身の正しさより先に「もう決まった」を作りにいくんですよ。
迷った顔をしないのも、その場の温度を落とさないためです。
決断の中身より、迷いが見えないことが力になる——ここがこのタイプの決断力の芯ですね。
物語では、全員が黙りこんだ話し合いの場で一人だけ立ち上がる役として書けます。
魅力2:恐れのなさ
揉めごとを損だと思っていない、という珍しい感覚を持っています。
対決を避けようとする計算がそもそも働かないので、正面から来ますし、正面から受けます。
対戦ゲームでいうと、ヘイトを散らして立ち回るのではなく、自分に全部集めにいく動きに近いですね。
怖いもの知らずというより、怖さを勘定に入れていないんです。
敵役でも味方でも、止まっていた場を一気に動かす起点になります。
魅力3:庇護
守る範囲に、はっきり線が引いてあります。
線の内側に入れた相手には理不尽なほど手厚くて、外側にはそこまで働きません。
優しいから守るのではなく、内側だから守るんですよ。
この非対称まで書けると、キャラが急に生々しくなります。
誰を線の内側に入れたのかを決めておくと、行動のほとんどがそこから引けます。
挑戦する人タイプがつまずく2つの葛藤
弱点を書き足したらキャラが嫌なやつになってしまって、結局もとに戻した。
そういう手戻りをした皆さんも、たぶんいますよね……。
まぁ、弱点は直すところではなく、キャラを転ばせるための仕掛けなんです。
このタイプの場合、その仕掛けは2つあります。
葛藤1:不信
人を疑ってかかるタイプではないんですよ。
信じないのではなく、預けたら終わりだと思っている——ここが微妙に違います。
弱った自分を渡した瞬間に、そこから崩されるという感覚が抜けません。
だから鎧を外せる相手を最後まで作れないまま、一人で抱える量だけが増えていきます。
本人に突き放したつもりはない……それでも、手を差し出した側からは拒まれたように見えます。
厄介なところですね。
葛藤2:強引さ
魅力1で書いた決断の速さは、そのまま裏返ります。
相手が迷っている時間を待てなくて、代わりに決めてしまうんです。
本人は場を進めたつもりで、相手からは選ぶ権利を取り上げられた形になる。
同じ速さが、味方の選択を奪う側に出るんですよね。
正直、ここで一度は関係を壊してしまう展開を通したほうが、物語は深くなります。
挑戦する人タイプのキャラ設定アイデア
物語で活躍させる職業アイデア
適職1:暴れ竜を独りで御す調教師
逃げれば終わる相手なので、正面から立つほかにない仕事です。
対決そのものを厭わない性質が、そのまま職能になります。
物語では、ほかの誰も近づけない場所へ平気で入っていく人として機能しますね。
竜が最後まで懐いていないところまで書くと、このタイプらしい手触りが出ます。
適職2:決壊の判断を独りで下す水門管制官
迷っている時間が、そのまま下流の被害になる持ち場です。
決まっている状態を作ることが職務そのものなので、このタイプの速さがまっすぐ活きます。
物語では、判断の正しさが後から検証される役として置けます。
正しかったかどうかは誰にも確定できない……その構図を作れるんですよ。
適職3:あやかしの棲む土地を拓いた牧場主
誰も手を出さなかった土地を買って、囲って、中にいるものを全部守る仕事です。
線の内側への手厚さが、そのまま生活の形になっているんですよ。
物語では、外から来た人物が線をまたぐ場面が使えます。
同じ現代異能の枠には、忠実な人タイプの危険物処理員という別の守りかたも並んでいます。
このタイプを象徴するもの
動物:熊
迂回せずに正面から来る獣で、縄張りの内側にいるあいだだけ静かです。
デザインに落とすなら、体格よりも歩きかたに出すと近くなります。
植物:野茨
刺だらけで、地際から切ってもまた出てきます。
紋章や家名のモチーフに使うと、守りと攻めが同じ形をしている感じを渡せます。
人工物:錨
打ち込んだら動かない道具です。
動かされる側ではなく、船のほうを引き留める側にある——この向きがこのタイプらしいところですね。
持ち物にも、名前の由来にも使いやすいモチーフです。
色:漆黒
混ぜ物のない黒で、塗り重ねるほど深くなります。
衣装に使うなら、光沢を落として面積を広く取ると重さが出ます。
自然現象:間欠泉
地の底で溜め続けて、あるとき一気に噴きます。
普段は静かなのに一度出ると止まらない、という怒りの出かたを説明するのに向いています。
挑戦する人タイプの見せ場を切り取る
その場で斧を持つ
枯れかけた大木を切るかどうかで、話し合いが二日続いています。
惜しむ人がいて、待とうという人がいて、責任を引き受けたくない人がいる場です。
そこへ入ってきて、切ると言い切って、そのまま自分が斧を握ります。
正しい判断だったかは、その時点では誰にもわかりません。
それでも、決まっていない状態が終わったことのほうが場に効くんですよ。
中身の正しさより先に決着を作る——このタイプの決断力は、こういう形で表に出ます。
真ん中から入る
店先でつかみ合いが始まって、周りは少し離れた場所から見ています。
止めに入れば自分も殴られる。
その計算が働いている人たちの輪を抜けて、真ん中に立ちます。
殴られる覚悟を決めたというより、損得の勘定にそれを入れていないだけです。
揉めごとを避ける計算が働かない——恐れのなさの正体はそこで、この場面はそれが一番わかりやすく出るところですね。
噛まれながら世話をする
誰にも懐かない獣がいて、世話係が何人も替わっています。
代わりましょうかと言われても、代わらせません。
腕の噛み跡は増えていくのに、飼い葉を運ぶ手だけは毎日同じ時間に来ます。
好かれたいわけではありません。
自分の線の内側に入れた相手だから、それだけなんです。
この理不尽なほどの手厚さは、外から見ると一番わかりにくくて、一番このタイプらしい部分だと私は思っています。
挑戦する人タイプがぶつかる壁の描き方
このタイプが対立しやすい相手
助ける人タイプとは、どちらも守る型で、硬さだけが違います。
線の内側に助ける人タイプが入ってくると、挑戦する人タイプが滅多に見せない側が表に出ます。
守る側どうしが守られる番になる展開は、この組み合わせでしか作れないんですよ。
改革する人タイプとは、押し合いになります。
片方は正しさで押して、もう片方は力で押す。
根拠が違うので、どちらが引いても納得だけが残らないまま決着します。
平和をもたらす人タイプとは、噛み合いません。
挑戦する人タイプは相手の同意を本心が見えないと感じ、平和をもたらす人タイプは圧そのものを避けて下がります。
押すほど相手が薄くなっていく空回りが、そのまま長い対立になりますね。
忠実な人タイプとは、世界は危険だという前提を共有していて、守る単位だけが違います(片方は輪、もう片方は縄張り)。
プレッシャーを受けたときの行動パターン
通常時は、押して、決めて、前に出ます。
それが続けられなくなると、押すのをやめて引きます。
このとき出てくるのは、調べる人タイプの顔です。
誰にも見えない場所で情報だけを集めて、決断を外に出さなくなります。
周りは急に静かになったとしか感じないので、何が起きているのか誰にも掴めません。
いなくなったわけではありません。
別の顔が出ているだけなんですよね……。
転換点となる時間と場所
ひとつめは、夜の厩です。
守っている相手から、守られていることが重荷だと言われる場所として使えます。
ほかに誰もいない時間なので、逃げ場がありません。
ふたつめは、昼の坂道。
荷を担いで上っている途中で、初めて誰かに代わってほしいと思う——その一瞬だけを書きます。
口には出さないところまでが、このタイプの転換点ですね。
みっつめは、明け方の浴場です。
傷を人前で洗えない自分に気づく場所で、鎧の話がそのまま身体の話になります。
横串で見る挑戦する人タイプ
余裕を失ったとき、調べる人タイプの顔が出る
さきほどのプレッシャー時の話は、エニアグラムでは矢印として整理されています。
余裕を失うと、調べる人タイプ側の振る舞いが表に出てくるんですよ。
そのタイプに変わるわけではありません。
普段は使っていない側が動くだけなので、調べる人タイプの記事[URL]と読み比べると、同じ動きの別の顔が見えます。
調子が出ているとき、助ける人タイプの顔が出る
逆に、調子が出ているときには助ける人タイプの顔が出ます。
求められる前に動いてしまって、頼まれるのを待てない——そういう側が内側から出てくる形ですね。
対立のところに出てきた助ける人タイプは、他人との間で起きる話でした。
こちらは自分の内側で起きる移動なので、混ぜずに書き分けると整理しやすいです。
助ける人タイプの記事[URL]では、同じ動きが外側から書かれています。
体系の外と共有しているもの
ユング12アーキタイプの支配者とは、決断・庇護・強引さの3本を共有しています。
MBTIのENTJとは、決断と強引さの2本ですね。
対応している、という言い方を私はしません。
座標の取りかたが違うだけで、写らないのは軸のほうで、特性ではないんですよ。
支配者の記事[URL]とENTJの記事[URL]は、同じ材料を別の並べかたで扱っています。
9つの並びのどこにこのタイプが置かれているかは、エニアグラムのハブ記事[URL]が入口になります。
ほかのタイプの材料も見比べたいときは、そちらから。
挑戦する人タイプと、あなたの物語のために
弱さも個性も、すべてが物語の素材
強引さも不信も、直すところではありません。
この2つがないと、挑戦する人タイプのキャラは動かないんですよ。
決断の速さだけを持った人は、ただ有能なだけの人になります。
速すぎて誰かの選択を奪ってしまうから、物語のほうが始まる——動かしているのは弱点の側です。
物語を紡ぐことで見えてくるもの
このタイプを書いていると、守るという行為に線があることに気づきます。
誰を内側に入れるかを決める作業は、キャラの設定というより、その物語で何を大事にするかを決める作業に近いんですよね。
……まぁ、私も書きながら気づいたことなので、偉そうには言えませんが。
さあ、あなたの物語を始めよう
設定が全部埋まっていなくても、このタイプは動きます。
線の内側に誰を入れたのか、そこだけ決まっていれば、あとは勝手に押しはじめてくれますから。
あなたのキャラは、もう斧を握る場面のほうで待っています。
あとは、書き出しの一行を置くだけですね。