タイプ6
忠実な人タイプから書きはじめるということ
慎重な性格のキャラクターを作ろうとして、設定を書き終えたあたりで手が止まる。
用心深い、疑り深い、仲間思い。並べてはみたものの、この子が物語の中で何もしないような気がしてくる。
そんなところで止まっている人は、けっこう多いんじゃないでしょうか。
ここで一拍だけ置かせてください。
慎重さは、動かないことではありません。
……慎重さは、人より先に動くことです。
エニアグラムは、行動そのものより「何を怖がって、何を求めて動くか」で人を9つに分ける見方です。
その6番目に置かれているのが、この忠実な人タイプ。
定義の話はここまでにして、キャラクターの作り方に入りましょう。
このタイプの頭の中では、最悪の展開がかなり具体的な像として先に見えています。
だから確認する。だから覚えておく。だから危ない側に自分が立つ。
本人にとっては用心でも、外から見れば、誰よりも早く手を打っている人なんです。
物語の材料としては、ここが効きます。
事件が起きる前から動く理由を持っているキャラは、書き手が何かを起こさなくても勝手に動いてくれますから。
しかも、このタイプが確認した手順を読者だけが知っている状態は、そのまま伏線になります。
念のため書いておくと、これは読んでいる人の性格を当てる記事ではありません。
「そういう性格のキャラクターをどう組み立てるか」の材料集として読んでもらえれば。
この記事では、強み3つと葛藤2つ、職業とシンボル、見せ場になる場面までを並べます。
全部を使うことはありません。
手元のキャラに1つ足せそうなものを見つけて帰ってもらえれば、それでじゅうぶんです。
このタイプを映す言葉
「勝利は、すべてを整えた者に訪れる。人はそれを幸運と呼ぶ」
——ロアール・アムンセン『南極点』(1912年)
人類で最初に南極点に立った人の言葉です。
備えは下ごしらえではなく、勝因のほうだと言い切っています。
「何事も急いてはいけない。一歩ごとに足元をよく見よ。そして初めから、終わりがどうなるかを考えよ」
——エドワード・ウィンパー『アルプス登攀記』(1871年)
マッターホルンに初めて登り、その下山で仲間を失った登山家が、本の最後に置いた言葉です。
初めから終わりを考える。忠実な人タイプの頭の中で、いつも動いているのはこの計算なんですよ。
一言で言うとこんなタイプ
最悪を先に想定するから、いちばん備えのある人になる。
これが忠実な人タイプの核です。
不安が行動を止めるのではなく、不安が行動の燃料になっている、と言い換えてもいいですね。
自分のキャラクターに当てはまるかを見るときは、「怖がりかどうか」より「怖がった結果、何をしているか」を見てみてください。
手が動いているなら、このタイプの線が濃いはずです。
忠実な人タイプの武器になる3つの特性
強みは3つに絞りました。
どれも「怖い」という一点から生えているのが、このタイプの面白いところです。
魅力1:緻密さ
このタイプの緻密さは、几帳面な性格から来ていません。
見落としたあとに何が起きるかが、先に映像で見えている。
だから確認が細かくなるし、他の人が飛ばす工程で手が止まります。
物語では、全員が見落とした一行を拾う役として置けます。
その一行が後半で効くように配置すると、それだけで構成が締まるんですよ。
魅力2:庇護
守る相手を、このタイプは個人で選びません。
守る単位が「輪」なんです。
自分が属している集まりの、外側の縁に立つ。かばうというより、危ない方角へ先に体を向ける動きになります。
守っているのは人ではなく、輪の外周です。
だから、名前も知らない新入りのために危険を引き受ける場面が、無理なく書けます。
魅力3:約束を守る力
破ったあとに誰がどう困るかまで、このタイプには具体的に見えています。
だから破れない。
誠実さの根っこに不安がある、という言い方もできますね。
小さい約束ほど守るので、読者の信頼はここで積み上がります。
その積み上げがあると、終盤で一度だけ約束を破る展開が、とんでもない威力を持ちます。
忠実な人タイプがつまずく2つの葛藤
疑り深いキャラは書きにくい、と感じている人は多いと思います。
嫌な人に見えてしまうから、というのが理由の大半じゃないでしょうか。
……そこは、書き方でどうにでもなります。
葛藤1:不信
不信と庇護は、同じ根から生えています。
「世界は危険だ」という前提が、輪の内側へ向けば庇護に、外側へ向けば不信になる。
まだ何もしていない相手にも、用心が先に届いてしまうんです。
転がし方としては、読者にだけ「相手は善人だ」と先に見せておく手があります。
そうすると、このキャラの用心がそのまま葛藤として読めますから。
葛藤2:様子見
最悪を想定する力は、そのまま足を止める力にもなります。
決めないことがいちばん安全な選択に見えてしまう。
セッションで全員の視線が集まっているのに、宣言だけができない……あの数十秒に近い感覚です。
まぁ、これは物語では扱いやすい弱点です。
決断を迫る場面を1つ置くだけで、キャラが勝手に苦しんでくれますから。
忠実な人タイプを形にする設定の素材集
物語で活躍させる職業アイデア
適職1:仕込みの温度を毎刻書き留める杜氏
一度の油断で、蔵ひとつが駄目になる仕事です。
見落としが怖いという性質が、そのまま技術として通用します。
物語では、数字の並びから異変に最初に気づく役を任せられます。
適職2:途絶時の手順を全部暗記している通信士
回線が切れた日のために、手順を体で覚えている人です。
輪の外側に立って、内側へ声を届け続ける庇護のかたちになります。
通信が落ちた瞬間に物語の中心へ引き出せるので、群像劇でも置き場所に困りません。
適職3:危険物の廃棄手順を守り切る処理員
誰も見ていない工程を省かない仕事です。
破ったあとの事態が具体的に見えるから守り切れる、という誠実さが職能そのものになります。
省略が事故に直結する設定なので、締切や人手不足を持ち込むだけで話が動きます。
守る単位を縄張りに変えると、SFの水門管制官(挑戦する人タイプ側の素材)と対になります。
このタイプを象徴するもの
動物:兎
耳で最悪を先に聞き取り、巣穴には必ず複数の出口を作る動物です。
逃げ道を用意しておく性質が、このタイプの備えと重なります。
デザインなら、耳飾りや聞き取る仕草に落とし込むと素直に伝わります。
植物:サボテン
水のない日のために溜めて、刺で守ります。
溜めるのと守るのを同じ体でやっているところが、このタイプらしいですね。
持ち物や部屋の描写に置くと、備蓄の癖を説明せずに見せられます。
人工物:合鍵
万一のために、もう一本だけ作ってある。
使わずに終わることを願いながら持ち続ける道具です。
名前や二つ名に使うなら、「予備」「もう一本」あたりの意味を含ませる手があります。
色:苔色
地味な黄緑です。
踏まれる場所に生えていて、いちばん長く残ります。
衣装のベースに置いて、差し色を1色だけ足すと、このタイプの佇まいに寄ります。
自然現象:遠雨
まだここには届いていない雨脚が、遠くに見えている状態のことです。
起きていないものを見ている、という点で、このタイプの視線そのものになります。
初登場の場面に置くと、性格の説明を一行も書かずに済みます。
忠実な人タイプの見せ場を切り取る
三枚目で見つかるもの
点検の立ち会いで、工程表を一枚ずつめくっていく場面です。
一枚目と二枚目は全員が見ます。
三枚目は、たいてい誰も見ません。
このタイプは三枚目までめくって、そこで数字の食い違いを一つ見つけます。
台詞は短いほうが効きます。「ここ、合ってないです」くらいで足ります。
見落としたあとの光景が先に見えているから、三枚目まで手が動く——その因果が、この一場面で伝わります。
いちばん危ない当番を代わる
当番の交代の場面です。
新入りに回ってきた当番が、いちばん事故の起きやすい時間帯だと気づく。
このタイプは名簿の自分の欄と入れ替えて、それだけ言って先に行きます。
優しさとして書くと、薄くなります。
守る単位が輪だから、輪の外周に自分を置き直しただけ……そういう書き方のほうが強いんですよ。
理由を語らせないほど、この庇護は伝わります。
頼んだ本人が忘れたころに
「ついでにこれ買ってきて」と頼まれる、それだけの場面です。
頼んだ側は、三日後には忘れています。
このタイプは覚えていて、忘れられたころに黙って渡します。
「まだ持ってたの」と言われて、少し困った顔をする。
破ったあとに相手が困る絵が見えるから破れない、という誠実さが、ここでいちばん静かに出ます。
大きな約束より、この規模の約束のほうがよく効きます。
忠実な人タイプを成長させる衝突と試練
このタイプが対立しやすい相手
まず、噛み合う側から。
調べる人タイプとは、不安を情報で処理する者同士です。
調べる人タイプは自分で確かめ、忠実な人タイプは輪に確かめる。方法が違うだけで動機が近いので、途中まで一緒に走れます。
挑戦する人タイプとも、前提を共有しています。
「世界は危険だ」という見方が同じで、守る単位だけが違う(こちらは輪、向こうは縄張り)。
同盟にも決裂にも転がせるので、長編の中盤に置くと便利な組み合わせです。
噛み合わないのは熱中する人タイプですね。
最悪を先に想定する人と、最良へ跳ぶ人ですから、話の順番からして合いません。
こちらの確認は相手には足枷に見えますし、相手の身軽さはこちらには無責任に映ります。
改革する人タイプとは、守るべきものがある者同士として話が早く進みます。
プレッシャーを受けたときの行動パターン
通常時は、確認と備えに時間をかけます。
余裕をなくすと、ここが逆になります。
ストレス時は、成果の見栄えのほうへ走ります。
備えることをやめて、不安を実績で黙らせる形に切り替わるんです。
手が早くなるぶん、いつもの確認の工程が抜け落ちます。
この抜け落ちを事件の引き金にすると、物語が一気に動きます。
本人がいちばん怖がっていた種類の失敗を、本人の手で起こさせる——きつい展開ですが、よく効きます。
転換点となる時間と場所
1つめは、夜半の倉庫です。
備蓄が全部無事だったのに、備えていた自分が少しだけ残念に思う。
自分の用心を確かめる機会が消えた瞬間なので、内側を覗かせるのに向いています。
2つめは、午前の橋の上。
いちばん信頼していた相手の判断を、初めて疑う場面です。
輪の内側に不信が入り込む一度きりの瞬間なので、中盤の折り返しに置くと効きます。
3つめは、春の朝の温室です。
守っていた輪が、自分がいなくても回っていた。
喪失としても解放としても書ける場面で、終盤の手前によく置かれる型ですね。
忠実な人タイプとつながる他のタイプ
余裕を失ったとき、達成する人タイプの顔が出る
エニアグラムには、タイプ同士をつなぐ矢印があります。
忠実な人タイプが余裕を失うと、達成する人タイプ側の振る舞いが表に出ます。
備えるのをやめて、成果を見せることで不安を黙らせにいく。
タイプが入れ替わるのではなく、普段は使わない側の顔が動く、と考えるとキャラがぶれません。
達成する人タイプの記事と並べて読むと、この顔の中身がもう少し具体的になります。
調子が出ているとき、平和をもたらす人タイプの顔が出る
逆に、うまく回っているときは平和をもたらす人タイプ側の顔が出ます。
自分が前に出ることをやめて、場のほうを保つ側にまわる振る舞いです。
守り方が「立ちはだかる」から「場を崩さない」へ移る、と書くとキャラの幅が出ますね。
他の体系と共有しているもの
MBTIのISTJとは、緻密さと約束を守る力の2本を共有しています。
対応しているのではなく、同じ特性を別の座標から見ている関係です。
同じ特性でも、ISTJの記事では違う顔で書かれることになります。
アライメントの秩序中庸の記事とも、同じ2本を共有しています。
向こうでは、この緻密さが所属の話として書かれています。
見比べると、特性が共通でも人物像は別物になるのがわかります。
9タイプをまとめて見たいときは、エニアグラムのハブ記事のほうが早いです。
他の8タイプと並べたほうが、忠実な人タイプの位置はつかみやすくなります。
忠実な人タイプと、あなたの物語のために
弱さも個性も、すべてが物語の素材
不信も様子見も、直さないまま連れていって問題ありません。
このタイプの強みは、どれも同じ根から生えていましたから。
片方だけ抜こうとすると、備えの厚さのほうも一緒に痩せます。
物語を紡ぐことで見えてくるもの
このタイプを書いていると、確認するという動作を何度も描くことになります。
そのうち、地の文で説明しなくても人物が立ってくる瞬間が来ます。
行動の積み重ねで性格を見せるやり方は、他のキャラにもそのまま使えるんですよ。
まぁ、私も新しい仲間を疑うキャラの序盤では毎回もたついているので、えらそうには言えませんが。
さあ、あなたの物語を始めよう
最悪を想定するキャラは、動き出しが遅く見えます。
それでも、想定した数だけ手を打っているので、いざというときにいちばん動けます。
設定メモの中で、あなたの忠実な人タイプはもう三枚目までめくり終えています。
あとは、めくった先に何を置くかを決めるだけです。