タイプ4
個性的な人タイプのキャラを、これから形にする人へ
その他大勢に混ぜたくないキャラが、1人はいませんか。
ほかのキャラと同じ制服を着せているのに、なぜかその子だけ浮いて見える。
設定を書き足すほど、用意した枠に収まらなくなっていく……そういうキャラを抱えている人は、けっこう多いんじゃないかと思います。
エニアグラムは性格を9つに分ける体系で、その4番目が個性的な人タイプです。
定義の話はここでは置いておきます。この記事で扱うのは、そういう性格を持ったキャラクターをどう組み立てるか、のほうなんですよ。
このタイプのキャラを書くときに、いちばん手が止まりやすいのが「変わっている」の中身です。
髪の色を変える、口調を変える、過去に事件を置く。外側の情報をどれだけ足しても、なぜか薄い。
足りないのは奇抜さではなく、動機のほうなんですね。
個性的な人タイプは、変わっていたいから変わったことをするキャラではありません。
自分には何かが欠けている、という感覚を出発点に持っています。
そしてその欠落を埋めて人並みに見せるかわりに、欠落のほうを差し出してしまう。ここが動きます。
この記事では、強み3つと弱点2つ、職業、シンボル、見せ場、転換点まで、キャラ1人ぶんの材料を並べていきます。
読み終わるころに、手元のキャラの輪郭が1段濃くなっていたらうれしいです。
このタイプを映す言葉
「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」
——若山牧水『海の声』
「幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく」
——若山牧水『別離』
染まらないでいることと、寂しさの果てを探して歩き続けること。
この2つが同じ人のなかで同時に起きているのが、このタイプの手触りに近いと私は思っています。
一言で言うとこんなタイプ
個性的な人タイプを一言でまとめると、欠落ごと自分の証明にしてしまうキャラクターです。
足りないものを隠して人並みに見せるのではなく、足りないという事実のほうを自分の輪郭として差し出す。
だから傷が浅くならず、そのかわりに誰とも取り替えがきかなくなるんです。
個性的な人タイプのキャラは、ここが面白い
このタイプに割り当てた強みは、美意識・表現力・洞察力の3つです。
どれも名前だけ見ると、ほかのタイプでも使われる言葉です。面白いのは、その中身の向きのほうなんですよ。
魅力1:美意識
このタイプの美意識は、好きだから選ぶ、という形をしていません。
これを選ぶ自分でありたいから選ぶ。判断の軸が、対象ではなく自分を向いているんですね。
だから多数決で決まった無難な正解に、最後まで頷かないことがあります。
全員が同じ方向を見ている場面で、1人だけ違う色を持ってくる役として書けます。
魅力2:表現力
表現力というと、よく喋る人を想像するかもしれません。
このタイプは逆で、言葉や熱ではなく、作ったもののほうに預けるのが基本形です。
つまり口下手のまま、表現力の高いキャラとして成立します。
説明を求められて黙り込み、数日後に完成品を無言で置いていく——その一場面が、そのまま人物紹介になります。
魅力3:洞察力
痛みを通して人の内面を見るので、鋭さの出方に偏りがあります。
同じ傷を持つ相手だけが、驚くほど早く見抜かれる。
逆に、傷を共有しない相手のことはあっさり読み違えたりもします。
この偏りを、そのまま関係の設計に使えます。
誰にでも効く観察眼ではないぶん、見抜かれた側にとっては特別な出来事になるんです。
個性的な人タイプの物語を深くする2つの弱点
ここから弱点の話に入りますが、直す項目のリストではありません。
物語を転がすためのエンジンとして見ていきます。
葛藤1:比較のまなざし
このタイプは、自分の欠落を自分だけでは測れないところがあります。
他者の持っているものを通してしか、何が足りないかがわからないんですね。
人の作品を見た夜に、自分のファイルをそっと閉じた記憶——皆さんにも心当たりがあるかもしれません。
このタイプのキャラは、その夜を何度も通ります。
だから物語では、他人の成果そのものを葛藤の引き金にできます。敵役を用意しなくても、うまい誰かが1人いれば話が動くんですよ。
そしてこの癖は、魅力1の美意識と別々のものではありません。
選ぶ基準を自分の側に置くことと、欠落を他人越しにしか測れないこと。同じ根から、表と裏が生えているわけです。
葛藤2:現実からの退避
内側に持っている世界のほうが、目の前の現実より鮮明に見えることがあります。
この退避が、いちばん深いところまで行くのがこのタイプの特徴です。ちょっと空想にふける、では止まりません。
戻ってこられるかどうかが、そのまま物語の緊張になります。
現実の側に、戻る理由を1つだけ置いておくと転がしやすいと思います……小さいもので構いません。
個性的な人タイプに似合う職業とシンボル
物語で活躍させる職業アイデア
世界観のなかに置いたときに、このタイプの性質がそのまま職能になる仕事を3つ挙げます。
適職1:同じ色を二度作らない染師
一度きりの色しか出さない、ファンタジー世界の染師です。
再現できないことを、欠陥ではなく価値のほうに置き換えている——自己の証明としての美意識が、そのまま商売の形になっています。
物語では、依頼人が「あのときの色をもう一度」と頼みに来る場面が使えます。
断ることでしか自分を保てない職人として、話の軸を作れるんです。
適職2:無重力で鳴る楽器の調律師
地上の音律が通じない場所で、耳だけを頼りに音を決めるSFの仕事です。
正解表がないぶん、作ったもののほうに預ける表現が職能としてそのまま効きます。
物語では、この人の調律だけ数値が合わないのに、演奏者はこの人を選ぶ、という対立を作れます。
規格を取るか感覚を取るかで、周囲の人物像も一緒に描けるんですよ。
適職3:遺品から故人の物語を書き起こす記録者
残されたものの傷や癖から、その人の生前を読む現代異能の職業です。
痛みを通して内面を見る目が、ここでは技術として扱われます。
物語では、遺族が知らなかった一面を掘り当ててしまう場面が山場になります。
書くべきか伏せるべきかの判断が、そのままこのキャラの倫理として立ち上がります。
このタイプを象徴するもの
動物:鹿
角の形が一頭ずつ違い、群れていても同じ姿がありません。
集団のなかにいながら個体として見分けられる、という点でこのタイプに重なります。
紋章やシルエットに使いやすいモチーフです。角の枝分かれの数を、そのキャラの年数として設定に組み込む手もあります。
植物:蘭
木の上に着生して、誰とも根を分けずに育ちます。
一株ごとに違う花をつけるところまで含めて、このタイプの生え方に近いんですね。
名前に使うと、依存していないのに1人では立てない、という矛盾を含ませられます。
人工物:金継ぎの器
割れた器の欠けを隠さず、割れ目そのものを金の線として見せる直し方です。
欠けを隠さないことが、そのまま様式になる——このタイプの表と裏が、1つのものの上で両立している例だと思っています。
美意識の側から見れば、欠落を作品にする手つきそのものです。
比較のまなざしの側から見れば、割れた場所がどこにあるかを、いつも数えてしまう目でもあります。
色:臙脂
血の色に近い、深い赤です。
明るくはないのに、いちばん濃く残る色として使えます。
衣装の一部にだけ差すと、地味な配色のなかでその1点だけ記憶に残ります。
自然現象:蜃気楼
ここにないものが、ここにあるように見える現象です。
内側の世界のほうが鮮明に見える感覚と、そのまま重なります。
このタイプが追いかけているものの正体として、比喩ではなく設定そのものに使う手もあります。
個性的な人タイプのキャラクターが輝く場面
強み3つに、1つずつ場面を対応させました。そのまま書き出しの下敷きに使えます。
誰も手に取らなかった一着
店員が、全員に似合う無難な一着を勧めてきます。
このタイプのキャラは礼を言って受け取り、そのまま棚の端にあった、誰も手に取らなかった一着を試着室へ持っていきます。
出てきたときには、もう空気が変わっています。
その場の全員が、無難なほうを見なくなる。
選んだのは服ではなく、それを選ぶ自分のほうだからです。
言葉より先に、置かれたもの
何を作りたいのかと聞かれて、うまく答えられない日が続きます。
言葉にしようとするほど嘘になる感じがして、途中でやめてしまう。
数日後、完成したものを黙って机に置きます。
見た人のほうが先に言葉を見つけて、「これ、こういうことか」と言う。
説明できなかったことを、作ったもののほうが先に説明してしまったわけです。
何年ぶりかの、最初の一言
何年も会っていなかった相手と、駅前で偶然すれ違います。
近況を交わす前に、このタイプのキャラは相手の変化に触れてしまいます。本人もまだ気づいていない変化に。
言い当てられた側は、たいてい一瞬黙ります。
同じ傷を持つ相手にだけ異様に速いこの目が、ここで初めて価値になるんです。
個性的な人タイプがぶつかる壁の描き方
このタイプが対立しやすい相手
まず、噛み合う側から見ておきます。
調べる人タイプとは、内側に世界を持っている者同士で話が早いです。
このタイプは感じたものを、調べる人タイプは分かったものを溜めていきます。少人数で深く付き合うのが両方の既定値なので、集団の端で自然と2人になります。
達成する人タイプとは、見られている自分と本当の自分をめぐってぶつかります。
向こうから見ると、このタイプのこだわりは非効率に映る。
逆にこのタイプからは、成果だけ積み上げていく姿が空っぽに見えるんですね。
どちらも間違っていないので、この対立は決着しません。
和解させるより、互いの目に何が見えているかを読者に見せるほうが、話は深くなると思います。
熱中する人タイプとは、痛みの扱い方で割れます。
痛みに留まる人と、痛みから逃げる人。
相手の明るさはこのタイプには逃避に見え、このタイプの深さは相手には重石に見えます。
助ける人タイプとは欠落を見る向きが逆で、このタイプが言葉にできずにいるものを相手が先に見つけます。
まぁ、相性は組み合わせる物語の都合で反転するので、傾向として読んでもらえれば。
プレッシャーを受けたときの行動パターン
通常時は、自分の内側を見ることに時間を使っています。
余裕を失うと、そこから目を離して、他人の必要のほうへ回りはじめます。
誰かの世話を焼くことで、自分がここにいる確認を取りにいくんですね。
役に立っている実感は増えるので、周囲からは調子が良さそうにさえ見えます。
ただ、本人の欠落の話だけが先送りになる——ここがそのままドラマになります。
転換点となる時間と場所
明け方の屋根裏。昔の自分の作品を見つけて、今よりいいと思ってしまう場面です。
比較の相手が過去の自分になるので、他人を1人も出さないまま葛藤を起こせます。
夕暮れの川岸。他人の作品に、本気で打ちのめされたあとの時間です。
悔しさと敬意が同時に出てくる場所として使うと、このタイプの誠実さのほうが前に出ます。
昼の中庭。ごく普通の会話の輪に、抵抗なく混ざれてしまった自分に戸惑う場面です。
特別でいることが自分の証明だったキャラにとって、これは小さな事件になります。
横串で見る個性的な人タイプ
このタイプは、ほかの体系の座標に写りにくい側にいます。
それでも、つながっている先はいくつかあります。
9タイプ全体の並びや、それぞれの位置関係は、エニアグラムのハブ記事にまとめています。
先に全体を見てから戻ってくると、このタイプの立ち位置が取りやすいと思います。
余裕を失ったとき、助ける人タイプの顔が出る
エニアグラムでは、余裕を失ったときに出る別の顔の行き先が、タイプごとに決まっています。
個性的な人タイプの場合、それが助ける人タイプの側です。
自分の内側を見るのをやめて、他人の必要のほうへ回っていく。
これは相手との化学反応ではなく、本人の内側で起きる移動なんですよ。
助ける人タイプの記事で、この顔が普段はどう出ているかを見ておくと、書き分けが楽になります。
調子が出ているとき、改革する人タイプの顔が出る
逆に、調子が出ているときに表に出るのは改革する人タイプ側の振る舞いです。
正しさが先にあって、そこへ現実のほうを合わせにいく。気分の波に振り回されずに手が動く時間帯、と考えるとつかみやすいです。
どちらもタイプが入れ替わるという話ではありません。
表に出る振る舞いが変わるだけなので、キャラの芯は動かさずに書けます。
正しさを先に置く感覚そのものは、改革する人タイプの記事のほうが詳しいです。
MBTIの2つのタイプと共有しているもの
体系をまたぐと、共有している特性が見えてきます。
MBTIのISFPとは、美意識と退避の2つ。INFPとは、表現と退避の2つを共有しています。
どちらも「このタイプに対応するタイプ」ではありません。
座標の取り方が違う体系なので、写る部分と写らない部分が出るだけなんですね。
共有しているほうの特性を見ておくと、キャラ設定の材料としては十分に使えます。
個性的な人タイプのキャラと歩き出すために
弱さも個性も、すべてが物語の素材
比較のまなざしも、現実からの退避も、直さないと物語が始まらない欠陥ではありません。
むしろこの2つを取り上げると、このタイプのキャラは動く理由を失います。
欠けているところを、塗りつぶさずに残しておく。
このタイプの造形では、それがいちばん効く選択だと私は思っています。
物語を紡ぐことで見えてくるもの
このタイプを書いていると、書き手のほうにも残るものがあります。
自分の作ったものを、つい他人の作品と並べて見てしまう癖に、途中で気づくことがあるんですよ。
気づいたからといって、その癖が消えるわけではありません。
ただ、キャラのほうを先に許せると、その順番で少し楽になることはあります。
まぁ、えらそうに書きましたが、造形の正解を私が持っているわけではありません。
さあ、あなたの物語を始めよう
最初の1人が、うまく書けなくても構いません。
このタイプのキャラは、書き手が完璧に理解してから動き出すタイプではないからです。
染めた色でも、調律した音でも、書き起こした一行でもいい。
そのキャラが最初に作ったものを1つ決めてしまえば、そこから性格のほうが後ろをついてきます。
あなたのキャラは、まだ誰にも見せていないものを1つ抱えたまま、出番を待っているはずです。