ISTP
ISTPタイプのキャラを、これから形にする人へ
口数の少ないキャラクターを作ろうとして、途中で手が止まったこと、ありませんか。
セリフが浮かばない。心情を説明する地の文も入れられない。
気づくと「無口」という一語だけが設定メモに残っていて、そのキャラが何をする人なのかは、書いている側にも見えていない。
……まぁ、これは無口の書き方が下手だという話ではないと私は思っています。
無口を「しゃべらない」という引き算だけで扱うと、そうなるんです。
黙っている理由が、そのキャラの中に一つも用意されていないからですね。
MBTIと呼ばれる16タイプの分類の中に、ISTPというタイプがあります。
四文字はそれぞれ内向・現実・論理・柔軟を指していて、名前はこの四文字そのものです。
定義の話はここまでにして、キャラクターの側へ行きましょう。
ISTPタイプは、黙っているのではなく、先に手が出ているタイプです。
「大丈夫?」と聞く前に、外れた戸を見にいく。
心配していないわけではなくて、心配を言葉にするより先に、直せるかどうかを確かめにいってしまうんです。
正直、このタイプは書き手にとってやりにくい相手かもしれません。
内心を語らないので、モノローグで説明を挟めない。
そのぶん、行動だけで人物を立てる練習にはなります。
この記事では、このタイプを設計するための材料を並べます。
強みを3つ、弱点を2つ、職業とシンボル、見せ場の場面。
全部を使う必要はありません。気になったものを1つ選んで、手元のキャラに置いてみるところからで十分です。
このタイプを映す言葉
「彼らが親切に拵えた品物の中に、彼らがこの世に活きていた意味が宿ります」
——柳宗悦
「手考足思」
——河井寛次郎
名を残さない職人の話と、手が考えて足が思うという四文字。
どちらもISTPタイプのキャラクターの立ち方をそのまま言い当てています。
このタイプは、自分が何をしたかを説明しません。直ったものが残るだけなんです。
一言で言うとこんなタイプ
言葉より先に手が動いて、直ったもののほうが返事になるタイプです。
問われたことに口で答えるより、目の前の不具合を先に片づけてしまう。
返事をしなかったのではなく、返事の形が違っただけなんです。
手元のキャラに当てはまりそうか、ここで一度見てみてください。
ISTPタイプのキャラは、ここが面白い
魅力1:手技
このタイプの看板は手技です。
ただ器用というのとは少し違って、知識が手のほうに溜まっている状態なんですね。
重心の狂いや締まりの甘さが、道具を握った時点で指に返ってくる……そういう蓄積のしかたです。
なぜ分かったのかを聞かれても、本人はうまく説明できません。
物語では、説明させないことがそのまま描写になります。
直した結果だけを画面に出して、理屈は最後まで書かない。
そのほうがこのタイプらしく見えます。
魅力2:実利眼
ISTPタイプの判断基準は、たいてい「動くか、動かないか」の一本です。
正しいか、美しいか、皆が納得するかは後回しになります。
そして、この目が向いている先は物です。
同じ実利眼でも、ESTPタイプが見ているのは場の空気や力関係のほうです。
ISTPタイプは、部屋の空気より先に、机の脚のがたつきを見ています。
議論が紛糾している最中に工具を出してくる人、と考えると輪郭が出ます。
魅力3:独立独歩
独立独歩といっても、このタイプのそれは行動の独立です。
一人で現場へ行って、一人で決めて、一人で帰ってくる。
相談しなかったのではなく、相談という手順が発想に入っていないんです。
INTPタイプの独立が「自分の頭で考える」方向なのに対して、こちらは足で動く側ですね。
仲間が計画を練っている間に、当人だけ現地から戻ってきている——物語ではそういう見せ方ができます。
ISTPタイプが苦しくなるのは、どんなときか
葛藤1:感情表現の不器用さ
このタイプを書いていると、肝心な場面でセリフが空欄になる瞬間が来ると思います。
皆さんの中にも、そこで手が止まった経験のある人はいるはずです。
……それ、実はキャラクターのほうも同じなんですね。
ISTPタイプの不器用さは、言うか言わないかを迷っている段階より手前にあります。
言うべきかどうか以前に、感情が言葉の形にならないんです。
ISTJタイプが「言わない」を選んでいるのとは、そこが違います。
葛藤2:距離の取りすぎ
もう一つは距離です。
このタイプは、人を遠ざけようとして遠ざけているわけではありません。
関心の外に人が置かれていて、単に視界に入っていないんです。
ここが魅力3の裏側になります。
誰の手も借りずに済ませられることが、そのまま人を勘定に入れない癖として育つ——同じ根から出た表と裏なんですね。
悪気がないぶん、傷つけたことにも気づきにくい。そこが物語になります。
ISTPタイプのキャラ設定アイデア
物語で活躍させる職業アイデア
適職1:弓を一張ずつ削る弓師
ファンタジー世界の弓師です。
使い手の腕の長さや引き癖に合わせて、一張ずつ削り方を変えます。
仕上がりの説明はしません。引いてみればわかる、で終わりです。
物語では、この寡黙さが信頼の描写に使えます。
言葉で保証しなかった弓が、戦いの場面で持ちこたえる。それだけで人物が立ちます。
適職2:潜水艇の外殻を海底で溶接する潜水溶接工
SF側の職業です。
一人で潜って、無線を切って作業に入る。
行動の独立が安全手順と両立している、珍しい形なんですね。
物語では、通信が切れている時間そのものが緊張になります。
その間に何が起きていたかは、戻ってきた本人しか知りません。
適職3:落とし物の刃物や器物を研ぎ直す研ぎ師
現代異能の世界での研ぎ師です。
持ち主とは話しません。預かって、研いで、返す。
研いだ結果だけが返事になります。
依頼人の事情を聞き出さない探偵役、という置き方ができます。
物のほうが持ち主より多くを語る——そういう構成に向いています。
ちなみにENTJタイプには、分裂した三つの職人組合を一つの規約にまとめた頭領という職業が割り当ててあって、使えなくなったものを使える状態へ戻す点だけが重なっています。
このタイプを象徴するもの
動物:蟹
硬い甲と、驚くほど器用な鋏が同じ一匹の中にあります。
守りの硬さと手先の細かさが同居しているところが、このタイプの見え方に重なります。
紋章や異名に使うと、防御的な印象と職人的な印象を一度に渡せます。
植物:胡桃
殻が硬く、割るのに手間がかかります。
それでも割れば中身は確かにあります。
名前や家紋に置くと、開かないことと空っぽであることは違う、という含みが出ます。
人工物:鑢
鑢は、手の感覚だけで平を出す道具です。
目盛りがないので、正しさは数値ではなく指に返ってきます。
持ち物に一本入れておくだけで、このタイプの判断のしかたが説明なしで伝わります。
色:鉛色
手の脂で光る金属の色です。
新品のときより、使い込んだあとのほうがこの色に近づきます。
衣装や道具の色に置くと、使われた時間そのものが画面に出ます。
自然現象:潮だまり
潮が引いたあと、岩の窪みに残る独立した小さな世界です。
外の海と切れているわけではなく、いまだけ切り離されている。
このタイプの孤立の質を言い当てているので、舞台や回想の場所として使えます。
ISTPタイプの見せ場を切り取る
木目を読んで、一度で継ぐ
荷車の柄が折れて、隊列が止まっています。
このタイプのキャラは折れ口をしばらく眺めてから、添え木の向きを一度だけ変えて、そのまま縛り上げます。
「先に進んでいい」とだけ言って、道具をしまう。
木目の走り方を見て、力のかかる向きを指で決めたわけです。
説明が一言もないところが見せ場になります。手技は、語られないほど本物に見えます。
湿った薪の中から選り分ける
野営地の薪はどれも湿っていて、誰が組んでも火がつきません。
このタイプのキャラは束を崩して端から握っていき、二割ほどを脇へ寄せます。
残りで組み直すと、火は普通に立ち上がります。
乾いているかどうかを、重さと表面の冷たさだけで選り分けたんですね。
燃えるか燃えないかしか見ていない——実利眼が物に向いている場面です。
交代を断って、朝まで
夜番の交代を申し出た仲間に、このタイプのキャラは首を振ります。
理由は言いません。そのまま朝まで立って、何事もなかったように鍋の番へ移ります。
夜のあいだに何があったかは、聞かれるまで話しません。
一人で決めて一人で片づけるのが、このタイプの独立のしかたです。
報告しないのは隠しているからではなく、済んだからです。
ISTPタイプを成長させる衝突と試練
このタイプが対立しやすい相手
噛み合いにくいのはENFJタイプです。
ENFJタイプは人を導いた責任を最後まで背負う側で、相手の状態に合わせて手を差し出し続けます。
ところがISTPタイプは、その差し出されたものに気づいていません。悪意ではなく、関心の外にあるからですね。
差し出す側は届いていないことを知っていて、受け取らない側は差し出されたこと自体を知らない。
どちらも自分のやり方を通しているだけなので、対立の形にすらならないまま距離が開きます。
ドラマにするなら、ENFJタイプが折れる場面より、ISTPタイプが後から気づく場面のほうが効きます。
逆に噛み合うのはENTJタイプで、ENTJタイプが方向を決め、ISTPタイプが実物にする——片方は物に触らず、片方は方向を決めないので、役割がきれいに割れます。
ESFJタイプとは、声をかけ続ける気配りがそのまま圧になる形で噛み合いません。
プレッシャーを受けたときの行動パターン
通常時のISTPタイプは、感情を出さないというより、出す形を持っていません。
それがストレス下では、量の調整なしに一度に出ます。
ふだん外へ出さないものが、加減されないまま出てくるわけです。
向かう先は、距離を取り続けてきた相手のほうです。
脈絡のない強い言葉が、いちばん遠ざけていた人に飛びます。
同じ内向でも、INTPタイプが自分の内側へ溜め込む側なのに対して、こちらは相手へ出る側です。
ここを取り違えると、まったく別のタイプになります。
……まぁ、そう書いている私も、書き分けはいまだに難しいと感じますが。
転換点となる時間と場所
一つ目は早朝の鍛冶場です。
持ち込まれたものは直せました。ところが、直してほしかったのはそこではなかったと言われる。
腕の問題ではなく……聞いていなかったという問題だと分かる場所です。
二つ目は昼の磯です。
岩場に打ち上がったものを一人で片づけていくうちに、波が届く範囲のほうが自分の手より広いと気づく。
一人でやれる範囲が、思っていたより狭いと知る場面になります。
三つ目は夕暮れの機関室です。
呼ばれていたのに、聞こえていなかったのが自分だけだったと、あとから分かる。
事件は何も起きません。得意なやり方がここでは効かなかった、という気づきだけが残ります。
横串で見るISTPタイプ
ここまで並べた特性は、ISTPタイプだけのものではありません。
同じ特性が別のタイプに入ると、まったく違う顔になります。
実利眼はESTPタイプの記事でも扱っています。
同じ「動くか動かないか」の判断でも、あちらは対象が場のほうへ向きます。
物を見るか、人の集まりを見るか。同じ特性がここまで変わるのは、書き比べると面白いですね。
独立独歩はINTPタイプの記事と重なります。
ISTPタイプが足で動く独立なら、INTPタイプは頭の中で完結する独立です。
プレッシャー下の出方も逆向きなので、二人を並べると対照が作りやすくなります。
体系を変えると、アライメントの中立中庸の記事とは実利眼・独立独歩・距離の取りすぎの3つを共有しています。
対応しているという話ではなく、同じ特性が別の座標にも置かれている、ということです。
座標が違うので、同じ3つを持っていても物語での動き方は別物になります。
16タイプの並び全体を見たいときは、16タイプのハブ記事から入れます。
あとはISTPタイプを書くだけ
弱さも個性も、すべてが物語の素材
言葉にならないことも、人が視界に入らないことも、直すべき欠点として置かなくて大丈夫です。
このタイプの弱点は、強みの裏返しとして生えています。
手が先に動くから言葉が遅れる。一人で済ませられるから人を勘定に入れ忘れる。
切り離して直すと、魅力のほうも一緒に落ちます。
物語を紡ぐことで見えてくるもの
このタイプを書くと、説明せずに人物を立てる書き方が身につきます。
内心を書けないぶん、行動と物で見せるしかないからですね。
これは他のキャラを書くときにも、そのまま効きます。
手が考えて足が思う、と河井寛次郎は書きました。
書き手のほうも、たぶん同じです。考えてから書くより、書いてから分かることのほうが多いと私は思っています。
さあ、あなたの物語を始めよう
設定を全部そろえてから書き始める必要はありません。
道具を一つ持たせて、それを黙って使う場面を1つ書く。
それだけで、そのキャラはもうISTPタイプに見えます。
あなたのキャラクターは、たぶんもう手を動かし始めています。
あとは、その手が何を直したのかを、書いてあげるだけです。