「中立悪の性格」についてざっくりまとめてみました

石像の魔術師のイラスト

「一生一大事、身を過ぐるの業、士農工商の外、出家・神職にかぎらず、始末大明神の御託宣にまかせ、金銀を溜むべし。是、二親の外に命の親なり。」
(人生の転機は生きていれば必ず来る、身分に関係なく来る。だからこそ、節約の神様の言葉を信じて貯金すること。貯金は家族の次に君を守ってくれる貴重な存在だ)

井原西鶴『日本永代蔵』(1688)

“Price is what you pay; value is what you get.”
(値段は支払うもの。価値は君が手に入れるものだ)

ウォーレン・バフェット『2008 Letter to Berkshire Shareholders』(2008)

中立悪という存在

中立悪のキャラクターを1人作ろうとして、やりたいことの記入で止まってしまった、皆さんにもありませんか。
復讐でもない。世界を滅ぼしたいわけでもない……。
そこまで書いて、カーソルが止まる。

中立悪は、大きな野望なんて持たなくていいタイプなんですよ。
理由が素朴なほうが、中立悪らしくもある。

損得で考える。損だとと思えば降りる。人も物も同じ精度で値踏みする。
やっているのはそれだけで、そのあいだに善悪の判定が挟まりません。
得だから動いて、結果として悪の側に立っていることもある。

誰の駒にもならないぶん、危ないときに呼べる仲間が少ないかもしれません。
身軽さと寂しさが同じ場所から出てくるところが、中立悪です。

ここが分かると、設計がぐっと早くなります。
必要なのは重い過去ではなく、勘定の合う状況のほうなんです。

この記事では、強み3つと葛藤2つ、似合う職業とシンボル、輝く場面、そして転換点まで並べていきます。
作りかけのキャラクターを1人、頭の隅に置いて読んでもらえると、そのまま設定シートに移せると思います。

一言で言うとこんなタイプ

善悪の欄が空いたまま、損得だけで動く計算機。
誰の駒にもならず、そのぶん、危ないときに呼べる相手もいない。

作りかけのキャラクターがこの2行に当てはまるなら、中立悪の棚に置いてみると輪郭が出ます。

中立悪が物語で輝く3つの瞬間

中立悪は、悪という看板を背負って歩いているわけではないんですよ。
まず、この3つを押さえると輪郭が出ます。

実利眼

損得を計算するキャラクターなら、他のアライメントにもいます。
中立悪が違うのは、その計算式に善悪の欄が最初から入っていないところなんです。

だから判断が速い。
全員が言葉に詰まる場面で、このキャラクターだけが先に口を開きます。
そこで出てくるのが正論ではなく金額や条件だったとき、読者はこの価値観を理解します。

……念のために、中立悪は善行も行います、善悪が天秤に乗っていないだけです。
非道だから躊躇うことはないですが、道徳的なことが嫌いなわけではありません。

独立独歩

雇い主がいても、中立悪のキャラクターにとってそれは上司ではありません。現在の取引相手、という位置です。
契約が終われば関係も終わって、忠誠も恨みも残らないんですよ。

失うものを持たない身軽さも、ここに入ります。
陣営が固まりきった物語にこういう立ち位置がいると、どちらの側にも出入りできる存在として話が動きます。

観察眼

人間観察が趣味ではなくて、生き延びるための道具なんですよね。
人も物も同じまなざしで冷静に測ります。
相手の靴の減り方と、机に置かれた書類の山を、同じ精度で見ている。

ただ、いちど値踏みの済んだ相手が白紙に戻ることは、まずありません……。
よく見える目と、人を信じられない癖は、同じ根から生えています。

中立悪が抱え込みやすいもの

弱点は直すために置いてあるのではなく、話を転がすために置いてあります。
中立悪の場合、その2つはきれいに繋がっているんです。

中立悪タイプのキャラが好きな人は、ここで葛藤する姿に惹かれてる……と思います。

不信

中立悪を書こうとすると、どうしても「ただ意地の悪い人」で止まってしまう。
そういう手詰まりを抱えている皆さんも、いると思います……。

中立悪の不信は、意地悪ではなく、自分を守るための先回りです。
よく見える目は、相手が自分を裏切るときの手順まで先に見せてしまいます。
裏切られる前に距離を取る。それを毎回やっていると、周りからは何を考えているか分からない人として扱われます。

誰も信じない人は、信じてもらえない
この往復そのものが、立派な葛藤になります。
純粋な優しさも、裏がないかと疑ってしまったり……そして、素直に受け取れない自分も嫌いになっていく……。
葛藤は、根にある良識的な心から生まれています、悪に染まりきれないからこその苦しさですね。

孤立

身軽さには代償がついています。
本当にまずい状況に落ちたとき、助けを求める先が思い当たらない。
頼れる相手を作らなかったのではなく、作る理由が毎回なかった……という順番です。

ここは物語でよく効きます。
強いキャラクターほど、助けを呼べない場面のほうが読者の記憶に残るんですよ。

全部の中立悪がここまで極端になるわけではないので、傾向として読んでもらえれば。
「借りを作りたくない」なんていって支援を拒否するのも中立悪っぽいですね。

中立悪を形にする設定の素材集

物語で活躍させる職業アイデア

始末屋

依頼人の名前も、依頼の目的も聞かない始末屋です。
善悪の欄が空いているという性質が、そのまま職業倫理として通用します。

物語では、引き受けた仕事の中身を読者だけが知っている状態を作れます。
依頼人の正体を後から明かすと、それだけで一本の筋になるんです。

沈没船のサルベージ

遭難者ではなく、積荷を引き上げる仕事です。
中立善のレスキューと同じ現場に出て、見ているものが正反対なんですよ。

同じ海図を広げて、違う欄に丸をつける2人——この対比は群像劇の骨になります。
救助側の視点人物とペアで出すと、どちらも説明せずに立ちます。

怪しい魔道具の中古販売屋

魔力の強さを、危険度ではなく値段で測る目利きです。
観察眼と実利眼が、市場だけを信じる形で結晶した職業ですね。

持ち主が次々に変わる呪物は、視点を移す装置になります。
ものがあちこちに転がっていく、そのたびに財布が潤う。

このタイプを象徴するもの

カッコウ

カッコウは自分の卵を他の鳥の巣に産みます。托卵とよばれる行動ですね。
育てる手間を丸ごと外部化して、そこに感傷が一切ない。

デザインに落とすなら、羽根のモチーフをひとつだけ。
二つ名にするなら、育ての親を持たない生い立ちと繋げると効きます。

彼岸花

彼岸花は墓地の縁によく咲き、根に毒を持っています。
その一方で、飢饉のときには根を水にさらして毒を抜き、食用にしていた記録が残っているんですよ。

死のそばに置かれたまま、条件しだいで価値に変わる花です。
紋章や持ち物に入れると、立ち位置をひとつの絵で示せます。

……余談ですが、黄色や白の彼岸花は貧弱で、助けがないと枯れてしまうのも特徴です。
毒草なのに他の草に栄養競争で負けて弱っていくんですよね。参考までに。

質屋の値札

質屋では、思い出の品にも値段がつきます。
形見でも、初任給で買ったものでも、札の上では同じ数字の並びになる。

形見でも状態が悪ければ安く、換金のための宝石は高い。そこに感情を乗せずに数値にする。
これを平等と取るか、冷徹と取るか。それは受け取りてによりけりです。

鈍色

鈍色は、ざっといえばグレーです。修行僧の色・喪服の色、もしくは曇り空の色。
光を返さないので、輝くことに興味がないという性質がそのまま出るんです。

純白にも漆黒にもならない。どの派閥とも言えない。そんな色です

引き潮

波が引いたあとの浜には、置き去られた物が残ります。
拾う人にとっては、いちばん効率のいい時間です。

何かを残す波かもしれませんし、砂浜に描かれていたものをかき消したり連れて行くかもしれません。
押し寄せる波は力強いモチーフとして描かれますが、こちらは静かな力として描いてみてください。

中立悪のキャラクターが輝く場面

三行目の墨

帳面の三行目だけ、インクが新しかった。
去年の秋の日付だ、ここだけインクが乾ききっていない。
ほかのページは、指の腹が黒くならない

雇い主は、七人を抱えている。
その七人ぶんの給金が、去年の秋から同じ数字で並んでいた。
同じ数字は、払っている証しではない。書き写している証しだ。

涸れかけの井戸は、汲む前に分かる。
水面が下がるより先に、底の硬さが縄を伝って上がってくるからだ。
三行目のあの色は、その土だった。

宿へ戻り、荷を革帯で締める。持ち物は多くない。

階段の下で、雇い主が待っていた。
払えてない給金は来月まとめて渡す、と言う。
声は落ち着いている。指だけが、上着の裾を握って離さない。

「契約はここまでだ」
それ以上は言わなかった。
言えば、こちらの都合まで交渉の材料になる。

雨の来る前の湿りが、戸口から流れ込んでくる。
去年は良い雇い主だった。
そのことと、来月この人が払えるかどうかは、別の桶に汲む。

通りへ出て、三つ角で振り返らなかった。
背中で戸が閉まる。
軒から落ちる雫が、敷石の同じ窪みばかりを叩いている。

渡る数を数える

三時間、誰もの話をしなかった。
上流の粉挽き衆はダムを夜通し守った苦労を並べ、下流の畑衆は流された苗の数を並べる。

橋は三カ月前に落ちた。
掛け替えの見積もりは、この村の一年の稼ぎより重い。
どちらが出すかで、話は毎回はじめに戻る。

正しさというのは、載せた端から増えていく。
釣り合わせる気がないなら、いつまででも載せられる。
そのあいだ、荷車の轍の深さを数えていた。

「上の衆はあの橋を年に40回、下の衆は120回渡っています」
自分の声が、思ったより低く土間に落ちる。
「渡る数で割ります。一に対して三。落ちた理由は、勘定に入れません」

粉挽きの老人が、口を開けたまま止まった。
畑の若い男は、確かめ直すために指を折りはじめる。
土間の隅で、犬が藁を掻いている。

善い側に立った、と言われるのだろうか。
呼ばれるぶんには構わない。
この天秤に善し悪しの目盛はない。
量ったのは、両側が持ち上げられる重さだけだ。

帳面の隅に、自分の取り分を先に書き入れておいた。
掛け替えの銀の、四十分の一。
ここを言い落とすと、この話はもう一度はじめに戻る。

寄合所を出ると、日はまだ高い。
橋のあった場所に、杭が二本だけ立っている。
子どもが川に石を投げて遊んでいた。

いちばん遅く入る

枕元の燭が、二本とも新しい。
点し替えたのは、今夜が長いと知っている誰かだ。
親方の肩の上がり方が、来たときより遅い

先に入った三人は、寝台のそばから動かない。
娘が手を握り、隣家の女が祈りの言葉を継いでいる。
若い弟子は、床の一点だけを見ないようにしている。
そのあいだを通って、仕事場の戸を開けた。

棚の道具に、灯を近づける。
カンナが九つ、ノミは柄を替えたものが混じっている。
壁に留めた証文は三枚、うち一枚の期日が来月。
朝になれば、貸した側が同じ紙を眺めに来るだろう。

先に数えておかなければ、数える役は向こうになる。
向こうの目方で数えられた道具は、まず戻らない。
冷たいと呼ばれるのは、たぶん正しい。
けれど、震える手で写せる目録が、今夜この家に一枚でもあるだろうか。

五年、この人にものの見方を教わった。
教わったのは、値のつけ方のほうだ。
それを今使うのが恩返しになるかどうかは、知らない。

手が動いていることに、あとから全員が気づく。
そのとき誰も理由を訊かなかった。
訊かれても、返す言葉は長くならない。

写しは二枚。
一枚を娘の膝に置き、一枚は自分の荷へ入れた。

燭の芯を、順に摘まむ。
油はまだ半分ある。
暗くなった部屋に、息が五人ぶん残った。
そのうちの一つだけ、間が長い

中立悪の転機はどこで訪れるか

このタイプが対立しやすい相手

中立中庸とは、話が早いんです。
信頼ではなく損得で結ばれて、損得が消えたら黙って離れる。
感情の貸し借りがないぶん、この関係はむしろ長持ちします。

長く組んでいるのに、一度も友情の話をしない2人組。
これは中立悪でしか作れない相棒像だと私は思っています。

中立善とは、同じ景色を見ていて、見ているものが違います。
一方は救う相手を数え、もう一方は値段を数えている。
共感があるかないか、その一点だけの鏡像なんですよ。

噛み合わないというより、会話が最後まで平行のまま終わる。
だからこそ、この2人を同じ現場に置くと場面が持ちます。

秩序悪とは、契約という形式をあいだに挟んだときだけ、驚くほど噛み合います。

プレッシャーを受けた時の行動パターン

通常時は、観察してすぐ動きます。
ところが追い詰められると、その観察が検算に変わるんですよ。

相手の言葉の裏を数え直して、確認が終わらない。
結果として、取引そのものを始められなくなります。
降りるのが早いのではなく、入口で止まる形です。

起動しないパソコンの前でケーブルを何度も挿し直して、その日は結局起動しない——あの止まり方に近いですね。

転換点となる時間と場所

夜半、報酬を受け取るはずの場所
約束の時刻を過ぎても、誰も現れません。
切り捨てる側にいたはずの人物が、切り捨てられる側へ回る瞬間です。

ここを一度描いておくと、以降の判断すべてに理由がつきます。

昼、炊き出しの列
見返りなしで配る人間を、いつもの精度で観察します。
計算式のどこにも入らない行動を見て、理解できない自分に気づく。

否定でも改心でもない反応にしておくと、このタイプらしさが残ります。

明け方、出港する船の甲板
遠ざかる港を見ながら、呼べる名前をひとつずつ数えていきます。
数え終わって、ひとつもないと分かる。

別れの場面ではなく、棚卸しの場面として書くと効きます。

中立悪を別の角度から見る

特性そのものは、中立悪だけの持ち物ではありません。
同じ特性でも、置かれた座標が変わると顔が変わります。

実利眼と独立独歩は、中立中庸のキャラクターとも共有されています。
善悪の欄が空いたままの中立中庸では、同じ計算が関わらない方向に働くんですよ。

独立独歩のほうは、混沌中庸とも共有されています。
誰の駒にもならない性質が、あちらでは風向きの変わりやすさとして出ます。

体系をまたぐと、中立悪はMBTIのISTPと実利眼・独立独歩を共有しています。
共有されるのはそこまでで、悪であることはISTPの側には写りません。
写す先の座標が、向こうに用意されていないからなんです。

まぁ、ここは私も混同していた時期があります。
善悪の目盛りは、認知の型の上には引かれていないんですよね。

9種類の並びの中で中立悪がどこに立っているかは、アライメント全体をまとめた記事のほうが早いです。

さあ、中立悪の物語を

弱さも個性も、すべてが物語の素材

不信も孤立も、直すために置いてあるのではありません。
信じない人が一度だけ誰かに背中を預ける場面は、その積み重ねがあるから効きます。

西鶴の言葉には、金銀の前に二親が置かれていました。
守ってくれるものを数えて、そこから先を金銀で埋めるという順番です。
値段を数えるのは、数える以外の手を持たないからなんですよ。

物語を紡ぐことで見えてくるもの

バフェットの言葉は、価格と価値を別のものとして置きます。
中立悪は価格のほうだけを見て動くキャラクターですが、それを書いているのは、価値のほうを知っている書き手です。

だからこのタイプを1本書くと、自分がどこに線を引いていたのかが後から見えてきます。
私は、そこが創作でいちばん得をするところだと思っています。

さあ、あなたの物語を始めよう

善悪の目盛りを持たないキャラクターは、思っているより素直に動くんです。
迷いがないので、置いた場所から歩き出します。

あなたの中立悪は、値段のつけ方をもう決めています。
あとは、最初の取引をひとつ書くだけです。