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「混沌悪の性格」についてざっくりまとめてみました

石像の覇者のイラスト

L’homme est non seulement tel qu’il se conçoit, mais tel qu’il se veut, et comme il se conçoit après l’existence, comme il se veut après cet élan vers l’existence, l’homme n’est rien d’autre que ce qu’il se fait.
(人間は生まれた時に役割が決められていない。生きながら自分を選び続け、その繰り返しの先に「その人らしさ」がある。
自分らしさとは、神に定められた役割ではなく、自分自身で作り上げたものだ)

ジャン=ポール・サルトル『実存主義はヒューマニズムである』(1946)

Jede Moral ist, im Gegensatz zum laisser aller, ein Stück Tyrannei gegen die "Natur", auch gegen die "Vernunft" : das ist aber noch kein Einwand gegen sie, man müsste denn selbst schon wieder von irgend einer Moral aus dekretiren, dass alle Art Tyrannei und Unvernunft unerlaubt sei.
(流行りの新しい価値観とは対照的に、すべての道徳は「自然」や「理性」を強く抑圧するものだ。だが、流行りの思想がただ抑圧の批判では意味がない。
これらの抑圧を止めるには、理性を抑圧する考えを超えた、新たな価値基準を宣言しなければならない)

フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』(1886)

一言で言うとこんな性格

秩序を嘲笑い、道徳に縛られず、欲望のままに動くもの
予測不可能で危険、しかし物語に投入すればシナリオの全てをひっくり返す起爆剤……そんな存在です。

古いTRPGでは、プレイヤー側として使用することを想定していないアライメントです。
近年は一応運用できるけど……明らかに推奨されていません。コントロールしにくい存在です。

物語で輝く3つの魅力

絶対的な自由への執着

ルール、常識、良心——あらゆる制約を拒絶する姿勢は、物語に強烈なインパクトを与えます。
他のキャラクターが「これはやってはいけない」と躊躇する一線を、何の迷いもなく踏み越える……。
禁忌を犯すシーン、タブーを破る場面で、混沌悪の真価が発揮されます。

純粋な欲望の体現

社会的な建前も、道徳的な配慮も一切なし。「欲しいから奪う」「邪魔だから壊す」という原始的な動機の透明性は、ある意味で清々しいんですよね……。
複雑な心理描写が不要で、行動原理が明快なため、読者にも理解しやすい(共感はされませんが)。

究極の対立軸としての機能

秩序を重んじる主人公との対決、道徳的なヒーローとの衝突——混沌悪は他のキャラクターの価値観を際立たせる鏡になります。
「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いに、混沌悪は「別にいいだろ」と答える……その瞬間、主人公の信念が試されるんですよ。
善悪の境界線を可視化する存在として、物語に深みを与えます。

このタイプの葛藤ポイント

自滅

他者だけでなく自分自身の利益すら顧みない破壊性は、長生きはできないでしょうね……。
「今が楽しければいい」という刹那主義が、結果的に自らの首を絞める……いや、本人は気づいても気にしないんでしょうけど。
物語では、この自滅的傾向が敵対者に利用される展開や、最終的な破滅への伏線として機能します。

孤立の必然性

誰も信じない、誰にも頼らない、そして誰からも信頼されない……完全な孤独は避けられません
裏切りを恐れて仲間を作らないのか、それとも仲間という概念自体を理解できないのか。
この孤立が物語のどこかで弱点として露呈する瞬間——たとえば数的不利や情報不足——が、ドラマを生むんですよ。

TRPGでGMに断られる理由の最たる理由がこれ。パーティーで行動することがまずできない……。
ルールブック側も基本的にプレイヤー側が使わない前提なので、設定の幅が最も少ないです。

キャラクター設定のアイデア集

物語で活躍させる職業アイデア

禁呪を操る闇魔導師

タブーとされる魔法——生命操作、精神支配、次元崩壊——を研究という名目で好き放題使う存在
魔法学会から追放され、各国から指名手配されながらも、誰も止められない力を持つ……規格外の存在です、人間というよりは台風とか山火事みたいな。
主人公が倒すべき最終ボス、あるいは危険だがこの人物でしか突破できない問題の解決役として登場させられます。

革命を売る傭兵団の首領

思想信条はなく、混乱そのものを商品として売るビジネス……ある意味、資本主義の極致ですね。
依頼者の目的など関係なく、戦争を長引かせ、被害を拡大させることで報酬を最大化する。
物語では、複数勢力の対立を煽る黒幕として、政治劇に混沌を持ち込む役割を担います。

呪われた遺物のコレクター

危険すぎて封印されるべき古代の遺物を、「面白そう」という理由だけで収集し使用する……しかも、呪われた道具をうまく使える天才。
遺物の力で周囲を破滅に巻き込みながら、本人はそのスリルを楽しんでいる。
主人公と同じ遺物を狙うライバル、あるいは遺物使用の被害者を生む加害者として登場します。

このタイプを象徴するもの

毒蛇

予測不可能な攻撃、致死的な毒、そして人間社会への適応を拒む野生性——混沌悪の攻撃性を体現する生物です。
冷血で共感性を欠き、本能のままに行動する様は、まさに混沌悪の比喩として完璧ですね……。
魔法のシンボル、刺青のデザイン、あるいは毒使いキャラの相棒として活用できます。

棘のある薔薇

美と痛みの共存、近づく者を傷つける防御性——混沌悪の二面性を表現します。
いや、本人に美しくありたいという意識はないんでしょうけど、他者から見た時に独特の魅力、というか根深い人気を獲得する人物が多いですからね。
キャラクターデザインのモチーフ、武器の装飾、あるいは比喩的な台詞表現として活用できます。

サイコロ

運命を偶然に委ね、理性的判断を放棄する究極のランダム装置。
いや、これほど混沌悪の行動原理を体現する道具もないでしょう……「なぜそうしたのか?」「賽の目がそう出たから」。
この無責任さ、この気まぐれさ。こういうことを生死のかかったタイミングで行うかもしれません。
でも同時に、賽子は完全に公平でもあるんですよね。
神も悪魔も等しく1/6の確率。混沌悪をゆいいつ平等に扱ってくれる存在なのかもしれません。

炎と煙

破壊と混乱の視覚的表現、後戻りできない変化を象徴する現象……混沌悪が通った後には何も残りません。
炎は浄化ではなく破壊、煙は視界を奪い方向感覚を狂わせる——秩序の対極としての混沌そのものです。
大規模破壊シーンの演出、あるいは魔法や能力のエフェクトとして機能します。

黒みがかった赤(クリムゾンブラック)

深紅よりさらに暗く、破壊の後に残る絶望を表現する色。
焼け跡、凝固した血、地獄の炎——混沌悪の「救いのなさ」を視覚化した究極の選択です。

深紅と漆黒のマーブル模様

情熱的な破壊を示す深紅と、虚無を表す漆黒が不規則に混ざり合い、予測不可能な模様を作り出す。
どちらが主でどちらが従かも定まらない、まさに混沌の視覚化ですね。
血と闇が踊るような色彩……見る者に不安と興奮を同時にもたらす、危険な美しさを持っています。

このタイプのキャラクターが輝く瞬間

秩序と安全が支配する世界に、突如として混沌を持ち込む瞬間——これこそが混沌悪の見せ場です。
平和な会議の場に乱入して議長を暗殺する、停戦交渉の席で両陣営に攻撃を仕掛ける、主人公が守ろうとしている街を「つまらない」という理由で焼き払う……。

また、「なぜそんなことをするのか」という問いに、理解不能な答えを返す場面も印象的です。
「楽しいから」「面白そうだったから」「別に理由なんてない」——合理性や道徳性を求める他者との決定的な断絶が露呈する……この絶望感がたまらないんですよね。

そして、予想外の裏切りや破壊によって、物語の流れを強制的に変える瞬間
主人公の計画が順調に進んでいたところに登場し、全てを台無しにする……予測を裏切り、物語に新たな展開をもたらす。
正直、物語を書く側からすれば便利すぎる存在なんですが、使いこなすのは難しいんですよ……。

キャラクターを成長させる衝突と試練

このタイプが対立しやすい相手

秩序を重んじる「秩序善」とは、存在そのものが相容れません
法と正義を信じる騎士、規律を重視する軍人、社会秩序を守る警察——秩序善にとって混沌悪は抹殺すべき脅威であり、混沌悪にとっては「つまらない」束縛の象徴です。
この対立は妥協の余地がなく、どちらかが倒れるまで続く……物語の根幹を成す対立軸として機能します。

また、同じ悪でも「秩序悪」とは激しく衝突するんですよね。
計画的で組織的な悪にとって、予測不可能な混沌悪は制御不能な不確定要素……利用価値より危険性が上回るわけです。
悪の組織のボスが混沌悪の部下を始末しようとする展開や、悪同士の内紛が物語に深みを与えます。

「中立」を保とうとする者たちとも対立します。
バランスを重視するドルイド、中立を標榜する商人ギルド、どちらの陣営にもつかない傭兵——混沌悪の破壊は彼らの中立の姿勢すら崩すんですよ。
「俺たちは関係ない」と言いたい第三勢力が、否応なく巻き込まれる展開として使えますね。

プレッシャーを受けた時の行動パターン

通常時から既に予測不可能な混沌悪ですが、追い詰められると更に極端な破壊衝動を示します
逃走という選択肢を取らず、むしろ「どうせ捕まるなら最後まで暴れてやる」と周囲を巻き込んだ自爆的行動に出る……最悪のパターンです。
人質を取る、建物を爆破する、禁呪を発動する——追い詰められた混沌悪は、損得勘定すら放棄するんですよね……。

また、孤立への恐怖ではなく、自由の喪失への恐怖が顕在化します。
捕まって牢獄に入れられることへの恐怖——それは死への恐怖よりも強いんですよ、混沌悪には。
「自由を奪われるくらいなら死ぬ」という選択をためらわず、結果として周囲に更なる被害をもたらす……困ったもんです、本当に。

そして、裏切りや逃亡を躊躇なく選択します。
一時的な仲間がいたとしても、自分が不利になれば即座に見捨てる——忠誠心や義理という概念が欠如しているため、予告なく消えるんですよね。
物語では、この裏切りが新たな敵対関係を生み、更なる混乱を招く展開へつながるかもしれません。

転換点となる時間と場所

炎上する廃墟、崩壊する建造物——破壊の最中こそが、混沌悪の内面が露呈する瞬間です。
全てが燃え落ちる中で、ふと「これで良かったのか」と疑問が浮かぶ……いや、反省はしないかもしれませんが。
少なくとも、破壊の虚しさや孤独が可視化される舞台として、焼け跡は効果的なんですよ。

嵐の夜、雷鳴轟く荒野——自然の暴力性と共鳴する環境も、混沌悪の転換点に相応しいですね。
制御不能なエネルギーに囲まれることで、自分自身の破壊性と向き合う……あるいは、自然の混沌に飲み込まれて消える結末も。
視覚的にも印象的で、クライマックスの舞台として機能します。

かつて破壊した場所への再訪——これは物語的に面白い設定です。
何年も前に滅ぼした村、殺した相手の墓、焼き払った森——そこに立ち返った時、何を感じるのか。
後悔はないでしょうが、虚無感や、あるいは更なる破壊への衝動が生まれる……混沌悪の内面を掘り下げる機会になります。

あなたの物語を紡ぐために

弱さも個性も、すべてが物語の素材

混沌悪は「悪役」だから魅力がないわけではありません
むしろ、完全な自由と破壊への衝動という極端さが、物語に必要不可欠な緊張感を生むんですよ。
この自滅的な行動、孤立への道、共感性の欠如——これら全てが、ドラマを作る素材なんです。

「悪いキャラクターは書きにくい」と感じるかもしれませんが……いや、実際には動機付けが明確で書きやすいんですよね、混沌悪は。
「欲しいから奪う」「邪魔だから壊す」——この単純明快さは、複雑な心理描写に悩む必要がないということ。
混沌悪は予測不能に見えて、理由はシンプルなことが多いですから。

物語を紡ぐことで見えてくるもの

混沌悪は、秩序と道徳の価値を逆説的に浮き彫りにします
「なぜ法律が必要なのか」「なぜ他者への共感が重要なのか」——これらの問いへの答えが、混沌悪との対比で明確になるんですよ。
混沌悪の破壊性を通じて、自分たちが当たり前と思っている社会の仕組みを再認識するわけです。

また、暗い衝動——破壊願望、自由への渇望、ルール違反の快感——これらと向き合う機会にもなります。
誰もが心のどこかに持っている「全部壊してしまいたい」という衝動を、混沌悪は代弁する……抑えている本能の代弁者です。
物語という安全な枠組みの中で、禁じられた欲望を解放する——それが創作の意義の一つかもしれません。

さあ、あなたの物語を始めよう

秩序に縛られることを拒否し、自分の欲望に正直に生きる——それが混沌悪の本質です。
社会的に非難されようと、孤立しようと、自滅しようと……自由であることを選ぶ。
これは現実では推奨できませんが、物語の中でなら存分に解放できますよね?

破壊衝動、ルールへの反発、「正しさ」への疑問——それらを混沌悪に託してください
完全に制御された「良い子」のキャラクターばかりでは、物語は退屈になる……災害のような破壊が必要なんですよ。
大陸を震撼させ、予想を裏切り、物語を引っ掻き回す——そんなキャラクターを、恐れずに創造してください。

さあ、鎖を断ち切り、仮面を砕き、あなたの物語に混沌を解き放ちましょう。
誰も予測できない展開、誰も止められない破壊、誰も理解できない動機——それこそが、混沌悪の魅力なんですから。
……まぁ、扱いには気をつけてくださいね。物語がズタズタに裂かれるかもしれませんから。

アルテミア王国 王立芸術古物院 呪物特別顧問のミセリコルデです
ルセンティアナ女王陛下の恩寵の元、特殊な魔法物品の鑑定補佐と管理業務を任されています