「中立中庸の性格」についてざっくりまとめてみました
ἐπισχοῦσι δὲ αὐτοῖς οἷον τυχικῶς ἡ ἀταραξία παρηκολούθησεν ὡς σκιὰ σώματι.
(判断を保留にしたら、不思議と心に平穏が訪れた。保留と平穏は、身体と影のように、繋がっているのかもしれない)セクストス・エンペイリコス『ピュロン主義哲学の概要』(1998)
La plus grande chose du monde, c’est de sçavoir estre à soy.
(最も大切なことは、自分を失わないことだ)モンテーニュ『エセー』(1580)
中立中庸というキャラクターの手触り
中立中庸を書こうとしたら、薄いモブキャラになってしまった。
そんな覚えのある皆さんもいると思います。
……たいていの場合、モブっぽくなる原因は、中立でいる理由が曖昧だからなんですね。
中立中庸は、善悪にも秩序と混沌にも寄らない位置にいるタイプですね。
定義としてはこれだけなんですけど、この一行だけを持って書きはじめると、まず手が止まります。
いや、止まる理由ははっきりしていて、「何もしない」に見えてしまうからなんです。
実際の中立中庸は、選ばない位置を保つためにかなり働いています。
中立はなんとなくそうなるのではく、覚悟を持って保ち続けるものです。
交戦中の両陣営から同じ日に依頼が来て、条件だけを見比べて即答する。
身内の不正を、他人のときと寸分同じ手順で裁く。
……並べていくと、「与しない」という一点だけで動いているキャラが立ち上がってきます。
この記事では、純中立のキャラクターを組む材料を、強み・弱点・職業・シンボル・見せ場の場面まで一通り並べます。
全部を使う必要はないので、引っかかったものを一つ持って帰ってもらえれば十分です。
一言で言うとこんなタイプ
どちらの味方でもない、という一点だけを守り続ける人。
善悪で動かないぶん、条件と手続きの上では驚くほど素直に動きます。
自分のキャラに当てはまるかどうかは、「この子が守っているものを一つだけ挙げる」と判定しやすいですね。
そこに正義でも野心でもなく「立ち位置」が出てきたら、このタイプの隣にいます。
中立中庸が物語で輝く3つの瞬間
実利眼
「正義のために力を貸してほしい」と説かれたとき、中立中庸が先に見るのは条件のほうです。
報酬、期限、断ったときに残る不利益。
大義名分の部分は、聞いてはいるけれど……報酬の一つぐらいにしか思っていません。
まぁ、そのぶん交渉相手からは話が早い相手として重宝されます。
敵対する二つの陣営が、同じ人物に別々の仕事を頼んでいる——その状況が、この強み一つで成立するわけです。
公平さ
公平さといっても、中立中庸の場合は善良さから出てきません。
どちらにも与していない……そう、中立な立場だからこそ、公平に発言できる、ということでう。
片方に一度でも肩入れしたら、その瞬間に信用のほうが消える。
ここ、けっこう危うい足場の上に立っている強みなんですよ。
重要な決定を任される場面を書くときは、「なぜこの人物なのか」の答えを能力ではなく立ち位置に置くと、中立中庸らしさが出ます。
独立独歩
巻き込まれないというのは、性格ではなく技術です。
誰と何回会うか、どこまで話すか、どの誘いをどんな顔で断るか。
……それを外さずに選び続けた結果が、あの距離なんですね。
対戦ゲームでいうヘイト管理に近くて、狙われない位置に居続けるほうがよほど手間がかかります。
物語では、全員から等しく遠いからこそ全員の情報が集まる、という役回りに置けます。
神出鬼没ってわけじゃないけど、みんなの敵ではない存在……インパクトはないですが、なかなか美味しい役回りです。
中立中庸が抱え込みやすいもの
様子見
中立を保ち続けたら、いつのまにか何もしないキャラになっていた。
あの手応えのなさ、覚えのある皆さんもいると思います。
……ここで起きているのが、様子見し続けて、手出ししなかった状態です。
判断を保留するのと、判断を先延ばしにするのは、外から見ると同じ形をしています。
本人の中でもだんだん見分けがつかなくなっていく。
学校の提出物を「まだ大丈夫」で置いておくのと同じで、選ばないことにもコストは発生しているんですけど、その請求書が遅れて届きます。
断った依頼の結末があとから戻ってくる形にすると、この弱点がそのまま話の骨になります。
距離の取りすぎ
「独立独歩」として長所にした技術は、そのまま弱点の側にも出ます。
上手いということは、やめられないということでもあるので。
本当は近づきたい相手にも、いつもの応対で返してしまうんです。
正直、ここを書けるかどうかで、中立中庸の魅力はかなり変わると思っています。
全員に同じ距離で接してきたキャラが、一人にだけ距離を間違える。
それだけで一本立ちますからね。今まで干渉してこなかったのに、あの人の時だけは我を忘れて動く……とか。
この弱点は世界観によってだいぶ変わるので、傾向として読んでもらえれば。
中立中庸のキャラ設定アイデア
物語で活躍させる職業アイデア
世界観を3つに分けて、1つずつ置いていきます。
交戦国間の関所番
戦争中の二国の境目に立って、どちらの兵も等しく通し、等しく通行税を取る役です。
敵国の使者にも同じ書式を出させ、同じ額を受け取る。
裁定者の公平が、思想ではなく生活の形をとった職なんですね。
物語では、主人公一行がここを通らないと先へ進めない関門として機能します。
戦況が動くたびに、この人物の一言で両軍の動きが変わるという使い方もできます。
永世中立地区の秤守
どの勢力にも属さない交易都市で、取引に使う度量衡を預かる仕事です。
この人物が「1」と言った重さが全勢力の「1」になるので、与しないことがそのまま商売の信用になっているわけです。
買収の話は毎週のように来ますが……受けた瞬間に商売のほうが終わります。
計測値そのものが争点になる事件を持ち込むと、この職業の重さが一気に出ます。
あやかしと人の仲介役
現代の街で、あやかし側と人間側の仕事を仲介して手数料を取る商売です。
どちらの陣営にも肩入れせず、条件の合う相手をつなぐだけ。
実利眼と距離の技術が、そのまま営業スタイルになっている職ですね。
主人公が持ち込んだ相談の裏で、もう一件が同時に走っている。
そういう二重構造を作りやすくなります。
中立中庸を象徴するもの
猫
どちらの陣営の膝にも乗って、どちらにも飼われない。
あの距離の芸が、このタイプの生き方と重なります。
二つ名に使うほか、使い魔として一匹だけ連れている設定にすると、飼い主の距離感を説明せずに見せられます。
葦(アシ)
水と陸の際に生えて、風が来ればしなり、通り過ぎれば戻ります。
茎の中が空洞なので、折れずに曲がれるんですね。
境界に住む者の強度としては、これ以上ないモチーフだと思っています。
見た目は地味、希少な植物でもない。でも歴史上で活用され続けた植物です。
紋章や家紋に置くと、地味なのに理由のある意匠になります。
有名な「人は考える葦である」って言葉もありますし、使いやすいモチーフです。
振り子
両極へ大きく振れて、必ず中心に戻ってくる装置です。
中立を「動かないこと」ではなく「戻ること」として描けるのが強みですね。
組織の徽章や屋号に置くと、本人が語らない信条を代わりに語ってくれます。
利休鼠
緑を含んだ灰色で、千利休の名を借りた日本の伝統色です。
どの色とも喧嘩せず、どの色にも染まらない「間」の色なんですよ。
衣装の基調に置くと、両陣営の色(旗でも制服でもいいです)の間に立ったときに、一人だけ画面から浮きません。
凪
凪は風がない状態ではなく、二つの向きの風が入れ替わる境目で、互いに打ち消し合っている時間帯です。
止まって見えるものの中身が拮抗だという点が、このタイプの中立と同じ構造なんですね。
登場場面をこの時間帯に置くだけで、説明せずに立ち位置を出せます。
中立中庸の見せ場を切り取る
同じ日に届いた二通
交戦中の両陣営から、同じ日に依頼が届きます。
片方は補給路の護衛、もう片方は同じ路の偵察。
このタイプは二通を並べ、報酬と期限と危険の3つだけを見比べて、その場で片方に「受けます」と返します。
迷いがないのは、正義のほうを最初から読んでいないからです。
大義名分を素通りして条件だけを見る——実利眼が最短距離で出るのが、この即答なんですね。
断られた側が「話が早い」と言って帰っていくところまで書くと、この強みは完成します。
身内の名前を、同じ帳面に
不正の告発が持ち込まれ、名前を確かめると身内でした。
このタイプは、他人のときに使った手続きをそのまま出します。
同じ帳面、同じ聞き取り、同じ日数。
身内だからと早めることも、厳しくすることもしません。
周りは冷たいと言いますが、ここで手心を加えたら、これまで下した裁定が全部揺らぎます。
どちらにも与しないから成立していた信頼を、自分の側から崩さない。
公平さが一番痛い形で出る場面です。
三度の来客、同じ一杯
一日のうちに、三人が訪ねてきます。
一人は誘いに、一人は脅しに、一人は泣き落としに。
このタイプは三人とも同じ席に通し、同じ茶を出して、同じ時間で帰します。
断り文句すら三度とも同じ。
独立独歩というのは、つまりこの均一さのことなんですよ。
巻き込まれない技術を磨いてきた人にしか出せないので、この繰り返しだけで、今まで何をかわしてきたかが読者に伝わります。
中立中庸がぶつかる壁の描き方
このタイプが対立しやすい相手
秩序中庸とは、静かに長く共存します。
片方は規程を守り、片方はどこにも与しない。
やっていることは違うのに、互いに踏み込まないことを礼儀と解する点で作法が一致するんですね。
十年一緒に暮らして、相手の過去を何も知らない……そういう関係が書けるのはこの組み合わせです。
噛み合わないのは秩序善です。
「中立は逃げではないのか」と踏み込んでくる相手に、このタイプは「その正義は押し付けだ」と返します。
どちらも自分の側では筋が通っているので、話し合うほど距離が開いていく。
この二人を同じ卓につかせるだけで、対話劇が一本立ちます。
混沌中庸とは、縛られたくない者どうしとして案外うまくやります。
プレッシャーを受けた時の行動パターン
通常時のこのタイプは、距離を測る技術を「誰とどう付き合うか」に使っています。
ところが追い詰められると、その技術が測る対象を減らす方向へ働きはじめます。
判断の期限は「もう少し様子を見る」で延び、同時に会う相手の数が絞られていく。
輻輳制御……つまり、回線が混んできたら自分から送る量を落とすような動きですね。
本人は落ち着いて見えますが、関与そのものが減っているという形で出ます。
周りが気づくのは、いつも来ていた人が来なくなったあとです。
転換点となる時間と場所
一つ目は、正午の丘です。
両軍の陣がどちらも見渡せる場所で、このタイプは見ているだけの自分の意味を問われます。
どちらも見えているのに、どちらへも降りない——その位置の重さを、本人が初めて自分で受け取る場面ですね。
次は、雪の夜の関所の炉端。
追われている者が転がり込んできて、泊めれば中立が崩れ、追い出せば人が死にます。
この二択には、いつもの「条件を見比べる」が使えません。
三つ目は、秋の午後、道が分かれる辻です。
断った依頼の結末を、通りすがりの噂として耳にします。
断ったのは正しい判断でした。
その正しさと、いま向こうにある結果とが、別々のものとして同時にある。
それに初めて気づくところで場面を切ると、判断の失敗ではなく、選ばないことのコストだけが残ります。
中立中庸を別の角度から見る
同じ特性を持っていても、置かれる座標が違うと顔が変わる——ここがこのタイプを読むときに一番面白い角度だと思っています。
独立独歩は、混沌中庸と中立悪も持っています。
中立中庸では巻き込まれないための距離になり、混沌中庸では縛られないための距離になり、中立悪ではまた別の形をとる。
一つの特性が三つの顔を持っているので、3本を並べて読むとキャラの作り分けがしやすくなります。
公平さのほうは秩序善と共有しています。
「誰にも肩入れしない公平」と「誰も見捨てない公平」で、同じ言葉の中身がまるきり別物になるんですよ。
体系をまたぐと、MBTIのINTPと3つの特性を共有しています(独立独歩・距離の取りすぎ・様子見)。
渡っているのは特性のほうで、善悪の座標はMBTIの側にありません。
同じ材料が、置かれている台だけ違うという関係ですね。
それから、中立は座標の真ん中にいることであって、座標の外に出ることとは別物です。
9種を一望する記事も用意しているので、位置関係を先に押さえたい場合はそちらから入るのが早いと思います。
中立中庸のキャラと歩き出すために
弱さも個性も、すべてが物語の素材
様子見も、距離の取りすぎも、直すところとして書かなくていいものです。
選ばなかった結果が、秋の辻で噂になって戻ってくる。
いつもの距離のまま、一人にだけ間違える。
この二つは、それだけで話が一本立つ材料なんですよ。
むしろ弱点を消すと、このタイプは書けなくなります。
与しない位置を守る人の物語は、守り切れなかった場面がないと、設定の説明で終わってしまうので。
物語を紡ぐことで見えてくるもの
純中立を一本書くと、「決めない」という選択にも重さがあることが、書いている側にも見えてきます。
私はここが、このタイプを書く価値だと思っています。
……まぁ、えらそうに言いましたが、私も断った誘いの結末を後から聞いて、何とも言えない顔になったことは何度もあります。
さあ、あなたの物語を始めよう
ここまで読んで、関所の炉端や秋の辻のどれかが引っかかったなら、それはもう設定が動きはじめている合図です。
丸ごと使う必要はありません。
「両陣営から同じ日に依頼が来る」の一行だけ持って帰っても、キャラは十分立ちます。
あなたが今つくっている中立のキャラクターは、どちらにも与しないという一点を、もう自分で選んでいます。
あとは、その一点が試される日を書いてあげるだけです。