「秩序善の性格」についてざっくりまとめてみました
Fundamentum autem est iustitiae fides, id est dictorum conventorumque constantia et veritas.
(正義の土台は信義だ。つまり、言ったこと・約束したことを、守り通すことだ)キケロ『義務について』(紀元前44年)
Τὸ τῷ σμήνει μὴ συμφέρον οὐδὲ τῇ μελίσσῃ συμφέρει.
(群れのためにならない行いは、その者のためにもならない)マルクス・アウレリウス『自省録』(170年後半)
ざっくり言うとこんなタイプ
誰も見ていない場所でも持ち場を離れず、困っているなら誰でも助ける英雄。
正しさを疑わないぶん、押し付けている自覚だけが最後まで持てません。
秩序を守るために動いているのに、いちばん大事な場面で秩序とぶつかる——そういう人物です。
秩序善のキャラを、これから形にする人へ
正しいキャラって、書きはじめると急につまらなくなりませんか。
決まりを守る。人を助ける。嘘をつかない。……設定シートの段階では魅力的なのに、いざ動かすと台詞が説教くさくなって、まわりのキャラのほうが生き生きして見えてくる。
……あの現象、皆さんも一度は通ったところだと思います。
秩序善は、アライメントのうち「決まりごとを信じていて、なおかつ人を助けたい」側に置かれた座標です。
問題は、そこから何を足すかのほうです。
このタイプが面白くなるのは、正しさが機能した場面ではなくて、正しさが引っかかった場面なんですね。
助けたいのに手順が終わらない。守りたい相手が、守るべき決まりの外側にいる。味方の言い分より、憎い相手の言い分のほうが筋が通っている。
そういう場面を1つ用意した瞬間に、説教くさかったキャラが人間の顔をしはじめます。
この記事では、その引っかかりどころを作るための材料を並べていきます。
まぁ、全部を使う必要はありません。1つ選んで自分のキャラに乗せてみるところからで十分です。
秩序善の武器になる3つの特性
秩序善のキャラクターの強みは、派手さで測れないところにあります。
並べると汎用ないい人まとめに見えますけど、秩序善が持つとき、それぞれに独特のねじれが入るんですよ。
公平さ
味方に向ける公平さなら、たいていのキャラができます。
秩序善の場合、それが敵にも発動してしまうのが特徴です。
憎んでいる相手の話を最後まで聞いて、そのうえで「今のは向こうが正しい」と口に出してしまう瞬間がある。
好き嫌いと正しさが、別々の場所に置かれているんですね。
描写するなら、話し合いの場で黙り込んだあとの一言に出します。
味方の期待を裏切る形で出てくるので、説明しなくても公平さのほうが伝わります。
約束を守る力
守るかどうかを決めているのは、相手でも状況でもなくて、約束したという事実のほうなんですよ。
だから見ている人がいてもいなくても、行動が変わりません。
証人がいない状況こそ、このキャラの見せ場になります。
誰も来ない場所で、誰も知らないまま、決めたとおりのことをしている。
描写としてはそれだけで足ります……派手な事件を足すと、かえって薄まるくらいです。
庇護
守る相手を選ばない、というのがこのタイプの厄介なところです。
味方の子どもも守りますし、対立している側の子どもも守る。
そしてそれは、自分が仕えている決まりごとと正面からぶつかる形で出てきます。
守ることと従うことが両立しない場面を1つ用意すると、このキャラは勝手に動きはじめるんですよね。
秩序善が抱え込みやすいもの
正しいことしか言っていないはずなのに、書いていると場面がだんだん重くなってくる。
秩序善を動かしていて、皆さんもそういう詰まり方をしたことがあるかもしれません。
……その重さの正体は、たぶんこの2つです。
融通の利かなさ
手順を飛ばせないんですよ。
助けられる相手が目の前にいても、確認すべきことが残っていれば確認します。その間、相手は待たされる。
怠けているわけでも冷たいわけでもなくて、手順を省略できないだけです。
正直、このキャラがいちばん人を傷つけるのは、ここだと思います。教義か、法律か、どちらにせよ時間がかかってしまう。
正しさの押し付け
善意なので、疑いが入る隙間がないんです。
相手のためを思って言っていることは本人の中では事実ですし、押し付けている自覚は最後まで持てないまま進みます。
悪意がないぶん、止まるきっかけがどこにもない。
周囲が距離を取りはじめても、理由が本人にだけわからない——この時間差が葛藤になります。
まぁ、全部のキャラがここまで極端になるわけではないので、傾向として読んでもらえれば。
秩序善のキャラ設定アイデア
物語で活躍させる職業アイデア
辺境にある砦の門衛長
手柄の立たない持ち場です。
それでも「誰かが立っていなければ門は開いたままになる」という理由だけで全うできるのが秩序善なんですよ。
庇護と履行が、目立たない形のまま毎日続いていく職業です。
物語では、主人公たちが通過する側として登場させると機能します。
通してよいかを決まりごとで判断する人物が門に立っているだけで、通る側の事情が全部あぶり出されるんですね。
宇宙船の航路管理官
数百人が眠ったままの船で、起きているのはこの人だけ。
誰も見ていないし、誰も評価しない。それでも規程どおりに航路を確認し動かし続けます。
証人ゼロの誠実さという意味では、いちばん極端な形かもしれません。
規程を破れば全員が助かるという分岐を一度だけ置くと、このキャラの芯がそのまま試されます。
守護霊の世話役
人類を守るという約束を、代替わりで受け継いでいる立場です。
誰を守るかは自分で選べない——というより、選ばないことが約束の中身になっている。
守る相手を選ばない庇護が、現代の器にそのまま載る設定です。
守る対象のなかに、自分を攻撃した生徒が混ざったとき。
そこがいちばん濃い場面になります。
このタイプを象徴するもの
ガチョウ
古代ローマのカピトリヌスの丘で、夜の襲撃を鳴き声で知らせて丘を守ったという逸話のある動物です。
牙も爪もない鳥が、警戒と声だけで守り手になった話なんですね。
強さだけで守るのではないという守護者の意志の表現として、秩序善によく合います。
紋章や家名のモチーフに置くと、地味さと誇りが同時に出ます。
菩提樹
村の広場に立って、集まる人すべてに影を貸す木です。
誰が来ても影の貸し方を変えない。守る相手を選ばない性質が、そのまま樹形になっているわけです。
キャラの出身地の目印や、待ち合わせ場所として置けます。
鞘
剣ではなく鞘のほうが秩序善らしい。
力を持っていることと、それを抜かないことを、同時に成立させる道具ですから。決まりごとを物のかたちにしたらこうなる、という形をしています。
装備の描写で、刃の意匠より鞘の手入れを丁寧に書くと、それだけで人物が立ちます。
白練
染める前の絹の白です。汚れがいちばん目立つ色を、あえて身につけている。
潔癖さと、汚れたときに隠せないことを引き受ける覚悟が、同じ一色に入っているんですよ。
衣装の基調色に置くと、後半で汚れた場面がそのまま見せ場になります。
木漏れ日
そのままでは強すぎる光を、枝葉が受け止めて地面まで届ける現象です。
決まりごとが人を守る側に働くとき、理想的にはこの形になります。
光を弱めているのではなく、届く形に変えている——このニュアンスがそのまま秩序善なんですよね。
二つ名や、このキャラがいつも座っている場所の描写に使えます。
こんな場面で秩序善は主役になる
味方を全員敵に回した一言
話し合いの席は、相手方の抗議をどう握りつぶすかで固まりかけていました。
そこでこのキャラだけが立って、「今の申し立ては筋が通っています」と言う。
部屋の温度が変わって、味方だったはずの全員の目がこちらを向きます。
それでも訂正しません。
憎いことと、正しくないことが、この人の中では別々に置かれているからです。公平さが本当に見えるのは、こういう損な場面だけなんですよ。
誰も見ていない夜が明けたとき
引き上げの知らせは、届かないまま夜になりました。
持ち場にいるのはこの人だけ。見張っている相手もいなければ、報告を受け取る相手もいません。
それでも朝まで立っています。
白んできた空の下で見せる顔は、疲れているのに、どこか納得している顔です。
約束を守る力は、人が見ているところでは測れません。誰も見ていない時間をそのまま通過できたかどうかで決まります。
味方の前に立つ
降参した相手方の子どもが、引き渡されようとしている場面です。
報復のために押し寄せてきた顔ぶれは、全員が昨日まで隣に立っていた人たちでした。
このキャラは、その前に出ます。
「この子はもう降りた側です。手を出すなら、先に私を通してください」
守る相手を選ばないというのは、こういうことなんです。自分が属している側と正面からぶつかってでも、庇う相手のほうを変えない。
秩序善の転機はどこで訪れるか
このタイプが対立しやすい相手
いちばん根深いのは秩序悪です。
どちらも「決まりごとがあってこそ人は動ける」という同じ言葉で話すので、議論が成立してしまうんですよ。
話が通じない相手なら距離を取れますけど、通じる相手とは最後まで話し続けることになります。
混沌悪との対立より、こちらのほうがよほど長く尾を引きます。
同じ言語で正反対を語る2人を、途中まで協力させてから割る。それだけで物語が持ちます。
もう1つは混沌中庸で、こちらは噛み合わなさの種類が違います。
秩序善の「なぜ約束を守らないんですか」という問いが、質問として届かないんです。
守るか破るかを選んだ覚えが、向こうには最初からない。気分が変わっただけですから。
怒りの持っていき先がないまま、秩序善のほうが消耗していく。
この構図は書きやすいと思います。
逆に、中立善とは楽に組めます——守りたいものが同じで、違うのは手続きへのこだわりだけですから。
プレッシャーを受けた時の行動パターン
通常時は、決まった手順を淡々と回す人です。
ところが追い詰められると、その手順の数のほうが増えていきます。
確認が一段、承認がもう一段。自分でも遅いとわかっているのに、省く判断だけができません。
押し付けのほうも、圧が強くなるのではなく長くなります。
説得という形をとって、終わらない話し合いになるんですね。
止まるのではなく、増える。
転換点となる時間と場所
深夜・無人の詰所。
机の上には、決まりごとでは裁きようのない嘆願書が置かれています。
このキャラが初めて規則書を閉じて、自分の頭で考えはじめる場所です。誰も見ていない時間にしか起きない変化なので、証人は置かないほうが効きます。
昼下がり・市場の裁定の席。
よそ者と町の顔役の言い争いを裁いているうちに、よそ者の言い分のほうが正しいと気づいてしまいます。
公平さと、これまで守ってきた共同体が、この席で初めて別の方向を向くわけです。
冬の朝・凍った井戸端。
誰かが足を滑らせて、確認も手順もなしに体のほうが先に動いた。そのことに、あとから驚く場面です。
自分の中に手続きより速いものがあったと知る瞬間なので、成長の起点として置きやすいところなんですよ。
秩序善を別の角度から見る
公平さという特性そのものは、秩序善だけのものではありません。
中立中庸のキャラクターも公平さを持っています。ただ向き方が違って、あちらはどちらにも肩入れしないための距離の取り方として出てくる。
秩序善のように、憎い相手の側に立ってしまう形にはならないんですね。
同じ名前の特性がどう化けるかは、中立中庸の記事と並べて読むとわかりやすいと思います。
約束を守る力のほうは、秩序中庸と共有しています。
あちらは約束の中身が善かどうかを問いません。決めたから守る、というところで完結している。
秩序善には「そのほうが人が助かるから」という理由が乗るぶん、破りたくなる場面が生まれます。この差は秩序中庸の記事のほうがはっきり出ています。
体系をまたぐと、エニアグラムのタイプ1と、公平さ・正しさの押し付けという2つの特性を共有しています。
面白いのは、同じ2つを持っていても基準の在りかが逆になるところです。秩序善の公平さは外にある決まりごとから来ますけど、タイプ1のそれは内側の基準から来る。
共有されるのは特性までで、善悪の座標そのものが向こうに写るわけではありません
さあ、秩序善の物語を
欠けているほうが、キャラを動かす
融通が利かないことも、押し付けてしまうことも、直したほうがいい欠点ではありません。
手続きを省けないから、目の前で人が待たされる場面が作れる。
疑いを持てないから、周囲との距離が開いていく時間差が書ける。
秩序善が物語を動かせるのは、この2つを抱えているときなんですよ。
正しさの側から見た景色を書く
9つの座標に、上等も下等もありません。
秩序善は「正しいキャラ」ではなくて、正しさの側から世界を見ているキャラです。
そこから見える景色を書いていくと、正しさが人を助ける瞬間と、人を待たせてしまう瞬間が並んで出てきます。
……と書きましたが、私も決まりごと側のキャラを書くとき、つい迷いのない人にしてしまうんですけどね。
誰も見ていない場所に、もう立っている
このタイプのキャラクターは、証人のいない持ち場を勝手に守り続けます。
書きかけのまま閉じたファイルの中でも、たぶん同じことをしているんですよ。
次に開いたときも、まだそこに立っているはずです。
動かしてやるのは、1場面ぶんで足ります。
あなたが開くまで、待っているだけですから。