同じ茶
「これ、頼まれてた書類」
ロゼさんが机の端へ紙を置いた。
「そこにお願いします」
それで話は終わった。
ロゼさんは向かいの椅子へ戻り、膝の上に広げた報告書へ目を落としていた。
わたくしも途中だった鑑定書へ戻る。
机にはカップが二つあった。
同じ茶を淹れたものだ。深く発酵した茶葉の色は濃く、白い器の内側を暗く染めている。
淹れたときには、どちらも同じくらい入っていた。
三行ほど直してからカップを取った。
まだ熱い。
一口だけ飲んで戻す。
次の記述には少し手間がかかった。依頼人の申告と実物の状態が噛み合っていない。
断定を避けながら、しかし曖昧にもならない文を探しているうちに、紙の上へ二度、三度とペン先を戻すことになった。
向かいでは、ときどき紙の擦れる音がした。
ロゼさんは読むのが早い。
わたくしが一枚を書き終えるころには、向こうの紙はもう何枚か場所を変えていた。
ロゼさんのカップは、もう空だった。白い底が見えている。
わたくしのものには半分ほど残っていた。
それだけ確認して、次の紙を取った。
しばらくして、ロゼさんが立った。
報告書を一枚、机の端へ移す。
そして、その隣にあったポットを取った。
空になった自分のカップには触れず、わたくしのカップに注いだ。
残っていた茶の色が少し薄くなる。
ロゼさんはポットを戻した。
わたくしは日付を書いた。
それから、また二人とも紙を見ていた。
窓から入る明るさが、机の上をゆっくり移っていく。
一枚終えた。
次の一枚には、前の担当者が付けた細い折り目が残っていた。そこだけ紙が柔らかくなっている。
読み進めながら、カップを取った。
さっきより軽い温度だった。
茶葉の渋みも薄くなっている。
二口飲んで、元の場所へ戻した。
次に手を伸ばしたときには、残りはもう少なかった。
そのまま飲んだ。
夕方の欄へ移るころ、机の上には、空になったカップが二つ並んでいた。