不眠の冒険者たち
錆びた剣亭は、今日も騒がしかった。冒険者たちの笑い声、ジョッキが打ち合わさる音、酒の匂い。
いつもと変わらない昼下がりの風景だ。
でも、俺たちのテーブルだけは静かだった。
いや、静かというより……重苦しい。
「まだか……」
リーダーのガレスが、何度目かのため息をついた。傷だらけの顔に、疲労が刻まれている。
「私だって、わかればいいんですけど……」
魔術師のセリアが不機嫌そうに呟く。眼鏡の奥の目には、悔しさが滲んでいた。
セリアは魔法の知識に誇りを持っている。それだけの才能もある。
でも、あの仮面の呪いは解析できなかった。
それが、彼女の機嫌を余計に悪くしている。
「落ち着きなさい、ガレス」
ドワーフの神官、ブレンダが穏やかに言う。
「今朝、王立芸術古物院に持ち込んだのよ。もうすぐ結果が出るわ」
「俺も全然寝れてないんだけど……」
俺――フィンは、テーブルに突っ伏したまま呟いた。
3日前の夜。ガレスが悪夢で飛び起きた。
2日前の夜は、俺とセリアが同じ悪夢を見た。
昨日の夜は、全員が不眠だった。
あの仮面の近くで寝ると、悪夢を見る。
それだけは確実だった。
今朝、耐えかねてリーダーが王立芸術古物院に持ち込んだ。
そして、酒場で待つこと数時間。眠気で食欲もないし、酒を飲む気分でもない。
店主の厚意で冷たい水を貰っている。
だが誰も手を付けていない、寝不足で手が滑りそうで怖い。心身ともに限界だ。
「こっちから出向くって言ったんだが……。
窓口で『こちらで預かる。結果は後で伝えるから、酒場にいろ』って追い払われてさ……」
ガレスが苦笑する。あのリーダーが、寝不足だとこんなに弱々しくなるのか……。
「あの仮面から離れられただけでも助かったわ」
セリアが頷く。でも、不眠の影響で顔色は悪い。
髪が乱れるまで頭をかいている。
こっちは、寝不足だとイライラするタイプらしい。
「おい、お前ら」
店主のギルバートが、カウンターから声をかけてきた。
元冒険者らしい、がっしりした体格の中年男だ。
「連絡が来たぞ。担当者が今から来るそうだ」
「本当か!」
ガレスが顔を上げる。
「ただし、担当は特別顧問だそうだ」ギルバートが付け加える。
「どんな人だろうな」
俺は少しだけ興味が湧いた。王立芸術古物院の特別顧問。
きっと、大きな魔法杖を片手に持った、長い白髭の老人だろう。
いや、鮮やかな色の服に、靴に鈴をつけたピエロかもしれない。
なんせ王立だ、ただものではないだろう。
赤髪の魔術師
それから、1時間ほど待った。
カラン――扉のベルが鳴る。
入ってきたのは、小柄な人影だった。
耳が長い。エルフだ。
だが、背が低い。子供か……?
紫がかった赤い髪。華奢な体。
黒いローブは刺繍で装飾され。ステッキをついている。
耳飾りの宝石がいくつも光っている。
俺ら貧乏冒険者とは縁遠い存在、金持ちだと嫌でもわかる。
後ろには、背の高い従者。武器は片手剣に盾。
フードを深く被っていて、顔は見えない。
足音は小さいが、静かに歩いているだけ。かなりの体重がある。
筋肉質かつプレートアーマーを着込んでいるのだろう。
赤髪のエルフは、店内をキョロキョロと見渡す。
そして、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
(え、まさかこの子が……?)
ガレスも困惑している。
「……あの、どちら様で?」
赤髪のエルフが、にこやかに微笑んだ。
「ごきげんよう。王立芸術古物院、呪物特別顧問です」
そう言って、身分証明を差し出す。
上質な紙に、銀の徽章。
王立芸術古物院の紋章が刻まれている。
ガレスがフラフラと立ち上がる。
「あぁ、お待ちしておりました」
赤髪のエルフが、俺たちを見回す。
「3日間の不眠と報告を頂いています。簡単な治癒でしたら私にも心得が……」
赤髪のエルフが、ブレンダを見た。
そして、微笑む。
「あら、優れた神官がいらっしゃいますわね」
賛辞を込めた口調。
「私の呪文では足元にも及ばないでしょう。お仲間を癒してさしあげてください」
ブレンダが、少し驚いた表情になる。そして、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。では、後ほど」
(……あの人、さりげなく相手を持ち上げるな)
俺は感心した。これが金持ちの余裕なのだろうか。
セリアが、じっと赤髪のエルフを観察していた。その目には、明らかな疑念がある。
そして――
言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
「……失礼ですが」
セリアが慎重に言う。
「こんなお若い方が、王国の特別顧問とは」
(おい、セリア……)
俺は内心で冷や汗をかいた。
貴族をご機嫌を損ねるなんてバカじゃないのか。
赤髪のエルフは微笑みを崩さなかった。
「あら、あなたほどのウィザードが見た目だけで判断なさるとは」
「……っ」
セリアが息を呑む。
「呪いの力がかなり強そうですわね。呪いが判断力を奪っているのでしょう」
赤髪のエルフが続ける。優しい口調だが、ブレンダを褒めたときとは違う。
目の瞳孔が少し開いてセリアを捕えている。
声のトーンもかすかに下がっている。
怒りを抑えている。
俺は思わず、赤髪のエルフに見入った。
俺だったら身長イジリはキレてる。
貴族の余裕だ。
やはり生きている世界が違う。
セリアは何も言い返せず、俯いた。
「では、鑑定結果を」
赤髪のエルフが、話題を変える。
従者が、小さな革の鞄を差し出した。
中から、書類を取り出す。
「今朝お預かりした仮面ですが」
書類を広げる。
「古代の儀式用仮面。死霊術が強く宿っていました。……当院の設備と職員でも時間がかかりました」
「やはり……」
セリアが顔を上げる。エルフの報告を真剣に聴いている。
「呪いの内容は、夢魔の呪縛」
赤髪のエルフが続ける。
「悪夢を見せ続けます。長期間曝露すると精神を蝕み、人格を破壊します」
「精神崩壊……!」
ブレンダが息を呑む。
「この仮面が原因と早く気付かれたので、精神力を奪われていはいないでしょう」
赤髪のエルフが微笑む。
「今夜はゆっくりお休みになれます」
「それは助かります……」
ブレンダが安堵のため息をついた。
彼女は影響をあまり受けていなかったが、俺たちを心配してくれてたのだろう。
「で、これからどうすればいいんだ?」
ガレスが尋ねる。そうだ、まだ呪われた仮面の処分方法が決まってない。
赤髪のエルフが、丁寧に説明を始める。
「選択肢は主に二つございます。解呪、もしくは我々への売却です」
高級そうな白い手袋から指が2本出る。
「当院は事業の一環として、呪われた品の買い取りを行っています」
「呪われているのに、買い取り……?」
ガレスが赤髪のエルフの言葉を繰り返す。
普通であれば、呪物は処分費用を払って引き取ってもらう。
セリアが数日間チャレンジし続けたのは、この処分費用を浮かすためだった。
「ええ、呪物を買い取り致しますわ」
赤髪のエルフが頷く。
「国策として、我々は多方面の魔術を研究しています。我々からすれば、呪物も研究対象です。
買取金額は一律で120Gです。
……古美術品としては安く買い叩いているのは承知です。
これほどの呪物が眠っていたダンジョンです、危険な冒険だったことは承知しております。
ですが、解呪費用は不要ですし、買い手が目の前に居ます」
赤髪のエルフが背後の従者に指示を出す。
従者が、革の鞄から小さな袋を取り出す。
チャリン、と小銭の音。
「俺は……もうこれ以上アレに関わりたくない。売却でいいか?」
ガレスが俺たちの方を向く。
「賛成」
セリアが即答する。
「私も」
ブレンダが頷く。
「俺も俺も」
俺も手を上げた。もう、悪夢はこりごりだ。
赤髪のエルフが微笑む。
「では、契約書を。呪物の権利移譲、以後呪物の返却に当院は応じない。
……といった内容です、確認ののちに署名を」
従者が契約書を取り出す。
ガレスがサインを済ませる。
赤髪のエルフが、金貨の入った袋を渡した。
ガレスが袋の中を確認する。120G。少額だが、ないよりはマシだ。
「……1人30Gか。今夜は一番いい部屋を借りて、しっかり寝ようぜ」
ガレスの言葉に、俺たちは深く頷いた。
命を懸けた報酬としては、正直、安すぎる。
だが、今の俺たちには、解呪にかかる時間も、これ以上仮面を持ち運ぶ気力も残っていない。
従者が書類をまとめ上げ収納していく。
(この従者……なんか、動きが硬いな)
俺は少し気になったが、深くは考えなかった。
酔っ払いの恐喝
その時だった。
ガチャン!扉が乱暴に開いた。
「おう、ギルバート!酒だ酒!」
千鳥足で入ってきたのは、見るからに酔っ払いの男だ。
がっしりした体格、酒焼けした顔、ボロボロのヨレた服。
「ロドリック、またか……。昼間から飲むな」
ギルバートが渋い顔をする。
「うるせえ!」
ロドリックと呼ばれた男が、カウンターに向かう。
(あー、面倒な奴来た……)
俺は小さくため息をついた。
あの男は、この街に来たばかりの新米冒険者らしい。酒癖が悪いと評判だ。
ロドリックが店内を見回す。
そして、赤髪のエルフに目が留まった。
「おいおい、こんなところに迷子の子供かぁ?」
ニヤニヤしながら近づいてくる。
(やめとけよ……)
俺は小声で呟いた。でも、この酔っ払いには届かない。
「お嬢ちゃん、おじさんに金を恵んでくれよ。護衛料ってことでさ」
ロドリックが、赤髪のエルフの前に立つ。
アイツも冒険者だ、筋肉質で背もそれなりに高い。赤髪のエルフは細い、そして背が低い。
肉食獣と、小動物……力の差は歴然だ。
赤髪のエルフは、微笑んだ。
でも、その目は冷たい。
「……あら、ご親切に」
「おう、わかってんじゃねえか」
ロドリックが調子に乗る。
「ですが、お断りしますわ」
赤髪のエルフが、きっぱりと言った。
「あ?」
ロドリックの顔が歪む。
「役立たずの雇用費を申請するほど、私は暇はしておりませんの。仕事も品性もない、どこかのおバカさんと違って、ね」
赤髪のエルフが扇子で口元を覆うようにしながら話す。わざとらしく声のトーンを上げている、子どもの声をマネしているのだろう。
……赤髪のエルフは、自分より一回りも二回りも巨体を挑発している。
「バカだと!?テメェ……!」
その瞬間――
従者が動いた。
瞬時に前に出て、ロドリックとエルフの間に割って入る。
「なんだテメェ!」
ロドリックが怒鳴る。
「どけよ!」
ロドリックが拳を振り上げた。
ドゴッ!
従者の胸に、拳が叩き込まれる。
鈍い音。
でも――
従者は微動だにしなかった。
「なっ……!?」
ロドリックが驚愕する。
「くそっ!」
ロドリックが連続で殴りかかる。
右フック、左ストレート、蹴り。
ガン、ガン、ガン!
すべて――
従者が受け止める。
いや、受け止めているというより――
受け流してる……?
俺は目を凝らした。
従者の動き。拳が当たる瞬間、わずかに体を捻っている。
衝撃を逃がしているんだ。
足の運び、重心の移動、すべてが計算されている。
(……それができるなら、かわせるだろ)
あの動きができるなら、力任せの打撃は全てかわせるはずだ
俺は密偵だ。
機敏な動きには目が利く。
自分が奇襲をするためでもあり、仲間を奇襲から守るのが役割だからだ。
あの従者は、かわせる攻撃をあえて受け止めている。
なんでだ……?
ローブの下にプレートアーマを着込んでいる音。
しかも、音がおかしい。おそらく二重にプレートアーマーを着込んでいる。
それでも大男の打撃だ、痛いだろう。
ひるんでもおかしくないはずだ。
そして――気づいた。
従者は少しづつ、店の中央付近の開けた位置へ移動している。
(……そうか)
開けた場所であれば、ヤツが足を滑らせてもほかの客には当たらない。
テーブルも壊れない。
俺は赤髪のエルフを見た。
彼女は呪文を詠唱している。
俺の視線に気づいたのか、ウインクを返してきた。
完璧な連携。チームプレー。
前衛が注目を集め、魔術師が安全に呪文を唱える。
あの拳も蹴りも、怒りすらコントロールしている。
俺は、従者に対する評価を改めた。
ただの護衛じゃない。
プロだ。
腕に覚えのある男の攻撃を全て受け止めながら、その動きをコントロールしている。
「くそっ、くそっ!」
ロドリックが息を切らす。
何度殴っても、従者は倒れない。
反撃もしない。
ただ、黙って立っている。
そして――
従者が動いた。
ロドリックの両腕を掴む。そのまま、動きを封じる。
「な、離せ!」
ロドリックが暴れる。
でも、従者の腕は少しも動かない。筋力の差は歴然だ。
「……ちっ」
ロドリックが、舌打ちをした。
勝てない。そう悟ったのだろう。
でも――
ロドリックの目は諦めていない。
床には空き瓶が転がっている。
ロドリックの顔に、悪意が浮かぶ。
(まずい!)
俺は直感した。
ロドリックが無理やり片腕を引き抜く。泥酔の勢いで、力任せに。
そのまま地面に転がり込む。
並んでいたエール瓶を掴む。
「くらえ!」
瓶を投げた。だが、従者の方向ではない。
赤髪のエルフに向かって飛ぶ。
(やばい!)
俺は立ち上がろうとしたが、脚に力が入らない。少し椅子がズレただけだった。
寝不足で身体が思うように動かない。
赤髪のエルフは、片手を胸の前で組む。
もう片手を、握手を求めるように伸ばした。
そして、空中で何かを掴むように手を握った。
次の瞬間。
その手には――エール瓶が握られていた。
(……は?)
俺は、目を疑った。
――その俺が見逃した。
俺は動体視力に自信がある。
罠の毒矢も、呪文の火球だって、全て避けてきた。
――その俺が見逃した。
瓶がエルフの手に瞬間移動した、そう説明するしかない。
赤髪のエルフが、瓶を見せつけるように掲げる。
そして、近くのテーブルに瓶を置いた。
コトン――
静まった酒場に響いた。
祈り
赤髪のエルフが、深呼吸をした。
セリアが反応する。
「……詠唱?」
セリアが探知魔法を構える。
魔術師にしか分からない何かが始まったようだ。
赤髪のエルフの表情が変わる。
無表情から――
目を細めて――
微笑む。
慈愛に満ちた、優しい笑顔。
(……なんだ、この変わりよう)
俺は、その変化に息を呑んだ。
赤髪のエルフが、小さく何かを呟くのが聞こえた。
手袋が――
ほのかに光り始めた。
「光ってる……!」
俺は思わず声に出した。
セリアの魔法探知が反応する。
「召喚呪文……?」
困惑した声。
赤髪のエルフが、両手を胸の前で組む。
祈りの姿勢。
顔を上げる。天を仰ぐように。
「あれは……祈り……?」
ブレンダが驚きの声を上げる。
「祈りの姿勢で、召喚魔法……。神の力を借りるつもり!?」
セリアが混乱している。
2人の反応から察するに、なにかすごい呪文を使おうとしているらしい。
赤髪のエルフが、両手を掲げた。
そして――
彼女が何かを発した。
(……え?今の言葉……なんだ?)
俺にはわからなかった。聞いたことのない言語。
言葉というよりも、心に響くような不思議な音。
ロドリックが、よろめいた。
「うっ……」
膝から崩れ落ちる。
ドサッ。
静寂。
酒場全体が、静まり返った。
大男が地面に崩れ落ちる音。
酒場の全員がこの音だけを聞いていた。
セリアが呆然としている。
「召喚呪文だけじゃない……分からない、あともう1つ唱えてる……」
セリアが、赤髪のエルフを見る。
その目には、畏怖の色があった。
「……こんな精密な制御」
隅にいた老魔術師が、セリアに声をかけた。
「あれが魔術の力じゃよ、お嬢さん」
老魔術師が続ける。
「召喚魔法だけではない。おそらく、あと2つ魔術の流れが感じとれる。
見た目で判断してはならぬ。幻術と、あのような才能に翻弄されてしまうぞ」
セリアが、小さく頷いた。
「……はい。肝に銘じておきます」
赤髪のエルフが、喉に手を当てた。ゆっくりと、小さく咳払いをした。
そして――
「失礼、私は贈り物は受け付けておりませんわ」
わざとらしい口調で言う。
「あと、レディへの贈り物ですよ?エールの空き瓶ではなくて、花束にしてもらえないかしら?」
微笑む。
(……この人、面白いな)
俺は思わず、笑いそうになった。
酒場を包んでいた緊張が解ける。
拍手、歓声、ジョッキのぶつかる音……。
酒場の騒々しさが戻ってきた。
事後処理
それから、少しして。衛兵が到着した。
二人組。
若手の男性に、おそらく上官の女性。
「ああ、またミセリコルデさんか」
女性衛兵が、赤髪のエルフを見て言った。
「お久しぶりです、マーサさん」
赤髪のエルフが、にこやかに言う。
「エドワード、聞き込み頼む」
若い衛兵に指示を出す。
「はい!」
エドワードと呼ばれた若い衛兵が、ギルバートや周囲の客に話を聞き始める。
女性衛兵が、赤髪のエルフに向き直る。
「被害は?」
「恐喝と、エール瓶の投擲ですわ」
赤髪のエルフが、淡々と答える。
「エール瓶を投げられた……怪我は?」
衛兵が眉を上げる。
「ございません。受け止めましたので」
「受け止めた……?」
衛兵が困惑する。
それはそうだ、見ていた俺たちですら理解できていない。
口頭だったらますます訳が分からないだろう。
「……まあいい。書類書くぞ」
女性衛兵がノートを取り出す。
若手が早足で戻ってくる。
「マーサさん、目撃者複数います。店主と、あちらの冒険者パーティが一部始終を見ていたそうです」
「よし、十分だな。悪いけど、明日、詰所に来てくれるか?被害届の署名が必要だ」
「分かりました」
「ああ、そうだ」
女性衛兵が苦笑する。
「うちの隊長が言ってたぞ。『またあの赤毛の魔術師か』って」
「あら、それは申し訳ございません」
赤髪のエルフが微笑む。
「私よりも話題になってほしい俳優がたくさんいるのですが」
「ははっ、そりゃそうだ」
マーサも笑った。
(この人、意外とユーモアあるな……)
衛兵と談笑をする貴族
魔術師の才能もあって
王国の特別顧問
……優秀すぎないか?
衛兵たちが、倒れたロドリックを運び出す。
あの戦闘の痕跡は全てなくなり。いつもの酒場に戻った。
「では、失礼します」
赤髪のエルフが、俺たちに一礼した。
「あ、ありがとうございました」
ガレスが慌てて頭を下げる。
「本当に、助かりました……」
ブレンダも深く頭を下げた。
赤髪のエルフが、優雅に微笑む。
そして、従者とともに退場した。
扉が閉まる。
「……行っちゃった」
俺は呟いた。
しばらく、誰も何も言わなかった。
「……なんだったんだ、あの子」
ガレスが、ようやく口を開く。リーダーからしても、理解のできない戦闘だったのだろう。
「……わからないわ。でも、実力は本物ね」
セリアが答える。少し前に失礼なことを言ったクセに。
「神に祝福された子……」
ブレンダが呟いた。褒められたのが嬉しかったのだろう。ずっと口角が上がっている。
「俺、気になるわ。あの人、何者なんだろ」
俺は正直に言った。
「『赤髪の特別顧問』って呼ばれてる」
ギルバートが、カウンターから声をかけてきた。
「腕はいいが、トラブルメーカーでもある」
「トラブルメーカー……?」
俺は首を傾げた。
「まあ、本人が悪いわけじゃないんだがな。目立つから絡まれる」
ギルバートが苦笑する。
「……なるほど」
俺は納得した。
あの外見に、あの振る舞いだ。
目立つに決まってる。