次はいつ

受付で短期資格を示すと、係の人は一度だけ札と手元の紙を見比べた。

「ロザリン部門長ですが、少しだけお待ちいただけますか。いま、手が離せないそうで」
「承知しました」

数分なら問題ない。
壁際の椅子へ向かおうとして、先にミルさんがいることに気づいた。
座ってはいる。ただ、椅子を使い切ってはいなかった。腰を置いているのは座面の前半分だけで、背中は背もたれから離れ、片方の足はすぐ立てる位置にある。
向かいの警備職員と何か話していた。
「だから、あそこ通るなら上からの方が早いっすよ。下だと荷物が来るんで」
「お前しか使えない道を勧めるな」
「でも早いっす」

ミルさんがこちらを見た。
「あ、ミセリコルデさん。ちょうどよかったっす」

身体だけがこちらへ向く。腰はまだ椅子の端に残っていた。

「何でしょう」
「次、いつやるんすか?」
「何をでしょう」
「酒場の。話す方」

公演のことらしい。
「三日後の夜です」
「あー」

ミルさんは少しだけ視線を上げた。

「その日、夜まで巡回っすね。無理か」
「そうですか」
「その次は?」
「まだ決めていません」
「じゃ、決まったら教えてください」
「ええ」

ミルさんの肩が警備職員の方へ戻りかける。その途中で、またこちらを見た。
「あ、今日ロゼちゃんの日っすよね」
「ええ」
「まだ来てないんすか?」
「少し遅れるそうです」
「ああ。捕まってるんすね」

何に、と訊く必要はなさそうだった。
受付の人も特に困った様子はない。

わたくしも空いている椅子へ腰を下ろした。


前回から一週間。
その間に急な変化があったなら、今日の確認項目は増える。

「今週、なんもなかったっすよ」
訊く前に、ミルさんが言った。

「何も?」
「いつも通りっす。仕事して、飯食って、書類見て、ミル怒って、また仕事してたっす」

最後だけ種類が違う。

「怒られたのですか」
「四十分くらい」
「それは長いですね」
「元気じゃないと四十分も怒れないんで、たぶん参考になるっす」

どうだろう。叱責の長さを状態確認の尺度に採用したことはない。
ただ、勤務を休まず、普段の業務をこなし、周囲から見て目立つ変化もなかった。少なくとも、一週間のあいだに外から分かるほど状態が崩れた可能性は低い。

「何をなさったのですか」
「そこ、要るっすか?」
「状態確認には不要です」
「じゃ、なしで」

ずいぶん都合のよい選別だった。

向かいの警備職員が小さく息を吐いた。
「あとで部門長に聞けば分かりますよ」
「言わなくていいっす」
「もう言ったがな」
「それもそうっすね」

ミルさんはそれ以上抵抗しなかった。

「今日も平気だったら」
椅子の前端に残ったまま、ミルさんがこちらを見る。
「次も一週間っすか?」
「ええ。今日の状態に変化がなければ、同じ条件でもう一度確かめます」
「じゃ、順調っすね」
「そうなります」
「よかったっす」

「そうだ。公演って途中から入っても平気っすか?」
「構いませんが、話は途中になりますよ」
「巡回終わってから行けば、後ろ半分くらい聞けそうなんすよね」
「最初から聞かなくてもよろしいのですか」
「前の話も最初の方は聞いたんで」
「別の話ですが」
「じゃ、なおさら途中からでも新しいっすね」
「出入りを止めるような公演ではありません。席が残っていれば、途中からでも入れます」
「じゃ、行けそうなら行くっす」
「分かりました」

受付の奥で紙を揃える音がした。先ほどの係の人が顔を上げる。
「ミセリコルデさん。ロザリン部門長がお待ちです」
「はい」

立ち上がる。

「じゃ、行ってらっしゃいっす」
「ええ。また」
「あ、次の予定決まったら教えてくださいね」
「覚えていましたら」
「そこは覚えといてほしいっす」

ミルさんも椅子から離れた。こちらへついてくるわけではない。
そのまま二歩ほど向きを変え、先ほど話していた警備職員の机へ戻る。

「で、なんの話してたんでしたっけ」
「お前しか通れない道を、人に勧めるなという話だ」
「ああ。それっすね。でも早いんすよ」

その声を背後に残して、廊下へ入った。