一週間

一週間空けても、ロザリンさんの返事は前回と変わらなかった。

「見え方は?」
「変わらないよ」
「勤務中に、何か気になったことは?」
「特にはないかな」

体調についても同じだった。前回までと比べて増えたものも、戻ったものもない。
記録を一枚戻して確かめる。前回も同じだった。
その前も、大きくは変わらない。

一週間という間隔を置いたのは今回が初めてだったが、短く戻す理由になるものは見つからなかった。

「こちらも、もう毎回分けて訊かなくてよさそうですね」
「減るの?」
「項目をまとめるだけです。必要なところは残しますよ」
「そっか」

残った項目を順に確かめ、最後まで問題がないことを記録する。

「問題ありません。順調です」
「よかった」

ロザリンさんが椅子の背へ身体を預けた。

問診のあいだ机に出していた記録を重ねる。以前より枚数が増えたぶん、最初のころのものは下へ回っている。
今日の分をいちばん上に置き、筆記具と一緒に鞄へ戻した。

留め具へ指を掛けたところで、ロゼさんが口を開いた。
「そういえば妹ちゃん、最近よく来てるけど、図書館とか美術館って使ったことある?」
「図書館は何度か。美術館はまだですね」
「図書館は行ってるんだ。何を読んでるの?」
「その時々ですね。都市の記録もありますし、古い紀行文もありました。あとは、目録を見て面白そうなものがあれば」
「妹ちゃんだと、難しい本ばっかり読んでそう」
「難しいかどうかで選んではいませんよ」
「そうなの?」
「面白いかどうかです」

ロザリンさんが笑った。
「それなら分かりやすいね」

留め具を掛けると、金具が小さく鳴った。
椅子から立ち、歩行杖を取る。

「あ、そうだ」
もう一度ロザリンさんを見る。

「前に言ってた公演、見に行った?」
「ええ」
「どうだった?」
「舞台転換が面白かったです」
「舞台転換?」
「幕を下ろさないんです。役者が話しているあいだも、後ろで大道具を動かしていました」
「それ、見えちゃわない?」
「見せていました」
「わざと?」
「ええ。街路の場面で会話が続いているあいだに、後ろから壁が運ばれてくるんです。机と椅子も出てきて、役者が最後の台詞を言うころには、もう次の場面の部屋が半分できている」
「へえ」
「そこで役者が歩く方向を変えると、客席の目もそちらへ移ります。その間に残った街路が片付けられて、次に見たときには部屋だけになっていました」
「作ってるところまで見えてるのに、気にならないんだ」
「むしろ、そこまで含めて見せる演出だったんでしょうね。場面が切り替わるというより、目の前で次の場所が出来上がっていく感じでした」

運び込まれた壁は、裏側まで化粧されていた。通常なら客席へ向けない面にも色があり、木組みを隠している。

「ずいぶん気に入ったんだね」
「そこは、かなり」
「お話の方は?」
「そちらも面白かったですよ」
「そっちは短いんだ」
「今は舞台転換の話をしていたので」
「はいはい」

ロザリンさんがまた笑った。

鞄を持ち上げる。
「では、今日はこれで」
「うん」

扉へ向かう前に、次回の日程だけ決めておく。
同じ条件でもう一度確かめればよい。

「次も一週間ほど空けましょう。来週の同じ頃に伺います」

ロザリンさんは机の上へ目を落とした。
さっきまで広げていた記録も、筆記具も、もうそこにはない。

「……うん。分かった」
「では、また来週」

扉へ手を掛ける。


「うん。また来週ね、妹ちゃん」