明日の話をする

最後の頁に日付を書き、帳面を閉じた。
今日の分はこれでよい。

ロザリンさんの状態について、前回から大きく変わったところはなかった。聞いておきたいことも聞いた。
こちらから新しく伝えることもない。

「では、今日はここまでにしましょう」
「うん。ありがとう、妹ちゃん」

帳面を鞄へ入れる。
筆記具も戻した。椅子の脇へ置いていた鞄を持ち上げ、立つ。

この部屋を使うのは、たしか三度目だった。

最初に来たときは、受付で用件を伝えてから人を呼びに行ってもらった。
次はロザリンさんが迎えに来た。
今日は名前を告げると、そのままここへ案内された。

毎回、少しずつ違う。
もっとも、用事の内容は同じだった。

「妹ちゃん、次いつ来るんだっけ」

扉へ向けていた足を止めた。
「そうですね。三日ほど空けても問題ないかと」
「三日後?」
「ええ」

ロザリンさんが机の上へ残していた紙へ目を落とした。
「その日なら、午前空いてるよ」
「午前ですか」
「午後でもいいけど、午前の方が落ち着いてるかな。たぶん」

鞄から帳面を出した。
三日後の頁を開く。午前には何もない。

「では、午前で」
「何時くらい?」
「ロザリンさんのお仕事に差し支えない時間で構いません」
「それだと決まらないでしょ」

一理ある。
机へ帳面を置いた。立ったままでは書きにくいので、椅子を少し引き寄せる。

「十時では?」
「うん。十時なら大丈夫」

書き込む。
そこまで書いて、帳面を閉じかけた。

「あ、じゃあこの部屋、取っておくね」

指を止めた。
「こちらを?」
「前も使ったし。場所変わると面倒でしょ?」

たしかに、部屋を探す必要がない方がよい。

「お願いできますか」
「任せて」

ロザリンさんは机の端に積まれていた紙を一枚引き寄せた。何かを書き始める。
こちらも帳面を閉じる。

「あと受付にも言っておくね。次は三日後の十時って」
「そこまでしていただかなくても、受付でお伝えすれば」
「でも毎回来るんだから、先に分かってた方が向こうも楽だよ」

毎回。その言葉だけが残った。
少なくとも今は、三日後にまた来る。さらにその後についても経過を見て決める必要がある。

「……そうですね」
「でしょ?」

ロザリンさんは紙に続きを書いている。

「前みたいに入口で待たなくていいようにしとくね。来たらそのまま通してもらえるか、聞いてみる」
「それは、規則に触れない範囲でお願いします」
「もちろん。そこはちゃんとするよ」
「もし無理なら私が迎えに行くね」
「お仕事中でしょう」
「ちょっとくらいなら平気」
「平気かどうかを決めるのは、ロザリンさんではなく予定の方では?」
「じゃあ予定を見て決める」

紙を一枚めくった。
こちらも三日後の頁をもう一度開く。

「午前に急な予定が入った場合は、前日までに宿へ伝言をいただければ調整できます」
「分かった。宿ね」
「はい」
「その次も同じ感じ?」
「その次は、三日後の状態を見てからです」
「じゃあ三日後に決めよう」
「ええ」

帳面から手を離す。
そこで、先ほど引き寄せた椅子の背が、もう肩甲骨の後ろにあることに気づいた。

先ほど、立った。鞄も持った。
それから、帳面を出すために鞄を机へ置いた。予定を書くために椅子を引いた。そのあたりまでは覚えている。いつ座ったのか曖昧だった。

「妹ちゃん?」
「いえ」

机の上には、開いた帳面がある。その隣には、ロザリンさんが書いた紙がある。
扉へ向かうつもりだったときより、物が増えていた。

「何でもありません」
「そう?」
「ええ」

帳面を閉じる。今度こそ鞄へ入れた。筆記具も戻す。
椅子を引き、立つ。

「では、三日後に」
「うん。十時ね」
「はい」
「気をつけて帰ってね」


扉を開ける。

「あ、妹ちゃん」

振り返った。

「受付の人に、今日はもう話さなくていいからね。私から言っとく」
「……承知しました」
「じゃあ、また三日後」


今度は止められなかった。

廊下へ出て、扉を閉める。

鞄の中には、先ほど閉じた帳面が入っている。
今日の記録は終わっている。

三日後の欄には、午前十時の予定がひとつ増えていた。